新たな息吹の襖絵 和歌浦の古民家に完成
画僧の慧善玄潭(えぜんげんたん)さんがこのほど、万葉集にも詠まれた景勝地・和歌浦(和歌山県和歌山市)に10日にオープンする和食店「あしべや夢ごてん」の大座敷と正面入り口に飾る襖絵2点を完成させた。
慧善さんは1958年韓国生まれで現在は大阪市内在住。80年に禅宗に出家得度。韓国で画家活動を続けるも、日本の仏画や仏像の美しさに魅了され88年に来日し、日本国籍を取得。展示会出展や個展など精力的に活動。日中韓親善美術交流展で優秀賞を受賞するなど国内外で評価され、数多くの受賞歴を持つ。
同店は㈱三八波(田上義人社長)が経営。襖絵の制作は12年前に和歌山市内で開かれた慧善さんの展示会に田上社長が足を運び、仏教画の素晴らしさに感動したのがきっかけ。以後、2人は意気投合し、親交を深めてきた。
場所は和歌浦中にある築100年以上の古民家を借り、和食店としてリニューアルオープン。歴史を感じさせる室内のイメージに合わせた襖絵を描いてほしいと慧善さんに依頼した。
大座敷の襖絵は店の立地に合わせて和歌浦から見た名草山や紀三井寺、不老橋などを描いてほしいと田上社長が思いを伝え、伝説の生き物「龍」が和歌浦の守り神として空に舞う姿など、慧善さんがインスピレーションに任せて制作に取り掛かった。広川町のアトリエで約半年間かけて制作。龍に目を入れて魂を注入した6月7日は激しい雨と雷が鳴る天候で、慧善さんは絵の持つパワーを感じたという。右側に雄の龍を、左側には子を宿した雌の龍をイメージ。躍動感あふれる高さ175㌢、幅95㌢の襖を8枚にわたって描き全長7㍍60㌢の大作が完成した。
もう一つの襖絵は商売繁盛の神様・えびすさまを描き、右側には太陽と赤富士、左側に紀三井寺を配置。鶴が、三八波の人気商品「紀州ぷりん」を口にくわえて運ぶ姿が来店客を温かく迎え入れてくれる。
慧善さんは「使われていた襖の上から、岩絵の具やコーヒーを混ぜた独自にアレンジした顔料で描いた。天然の持つ独特の色合いが室内にマッチして時間がたつにつれて色合いの変化が楽しめるはず」とし、田上社長は「イメージ通りの作品を描いてもらい、趣のある建物でゆっくりと料理を楽しみながら襖絵を堪能してもらえれば」と話した。
◇
10日オープンの「あしべや夢ごてん」は有田市の辰ケ浜漁港から水揚げされた生きのいい魚介類を使用。旬の素材を使った色とりどりのランチが1500円から、ディナーは5000円からのコースを中心に一品料理も多彩に提供する。夜になると、ライトアップされた美しい庭園や襖絵を眺めながら食事が楽しめる。