ゆっくりすべり検出 南海トラフ震源域で
和歌山県沖の熊野灘などを含む南海トラフ巨大地震の震源域の海底下で、プレート境界断層が動く現象「ゆっくりすべり」が発生していたことが、東京大学と海上保安庁の研究グループによる観測データ解析で分かった。地震の発生過程に関する理解や発生リスクの評価に重要な知見を提供する成果と期待されており、16日付のアメリカの電子版科学雑誌「サイエンス・アドバンシーズ」に掲載される。
「ゆっくりすべり」は、通常の地震のようにプレート境界断層が急激にすべることなく、ゆっくりとすべりを起こす「スロー地震」の一種。巨大地震の発生帯となるプレート境界では、多様なスロー地震が発生していることが、これまでの地震・地殻変動観測によって解明されてきたが、陸域から離れた海底下については、同様の現象が発生している可能性が示唆されていたものの、観測が非常に困難だった。
東大生産技術研究所と同庁は共同で新たな観測技術の開発を進め、海底のセンチレベルの地殻変動を検出することが可能になり、南海トラフ沿いのプレート境界の陸側と海底側の固着の強弱の推定などに貢献している。
今回の解析は、同研究所海中観測実装工学研究センターの横田裕輔講師と同庁海洋情報部の石川直史火山調査官の研究グループが実施。南海トラフに設置している15の観測点のデータから、「ゆっくりすべり」が原因とみられる海底の動きを示す変化が7地点で検出された。
明確な変化が検出されなかった地点は、プレート境界の固着が強いと推定されている領域にある一方、変化が検出された7地点は固着が強いと推定されている領域の浅部の外側(周辺部)にあることから、「ゆっくりすべり」の発生域は強固着域とはすみ分けられているものと考えられる。
研究グループは「陸上観測網では感度の低い領域において『ゆっくりすべり』に由来する変化の検出に成功したことは、地震学上重要な意義がある」と強調。一方で、今回検出されたのは、5㌢以上の変化を伴う「ゆっくりすべり」としては比較的大きなものであり、これ以下の微小な変化の検出が難しいことも示されたとし、今後の観測技術の進展に期待を寄せた。