情熱刻んだ木版画 海南市の木下護さん回顧展

昨年3月に69歳で亡くなった和歌山県海南市の元中学校美術教諭、木下護さんの作品を紹介する回顧展が30日まで、和歌山市湊通丁北のアバローム2階ギャラリー龍門と、同市湊通丁南のギャラリー白石の2会場で開かれている。「いつか個展を」と願った故人の遺志を継ぎ、妻の久子さん(69)が企画。多版多色刷りによる鮮やかな画面や、筆で描いたかのように繊細な木版画の表現が訪れる人を驚かせている。

木下さんは同市の和大付属中、海南市の第三中などで25年間、美術教諭として教壇に立った。50代半ばで退職後、山歩きや卓球を楽しみながら、情熱を注いだのが版画の制作だった。

日本板画院和歌山支部で腕を磨き、特に多色表現に魅了され、絵画グループ「エトアール洋画会」に所属。精力的に作品を発表していた矢先、昨年1月に肺がんが見つかり、2カ月後に旅立った。

灯台や湖、海や山など北海道の自然風景を愛し、久子さんと何度も車で出掛けたという。礼文島を2日かけて歩き、一周したことも。色ごとに版を作り、刷り重ねていく木下さんの多版多色作品は、まるで筆で描いたように繊細。静謐(せいひつ)で叙情豊かな世界が表現されている。

今展では、油彩やデッサンなどを含め、2会場に約70点を展示。熊野本宮大社の紅葉、小辺路の大木、グラスや貝を題材にした作品が並ぶ。

エトアール洋画会のメンバーで、同じ時期に入会した播磨静さんは「作品はどれも、その場の空気を取り込んだかのようで素晴らしい。これからという方で、もっと作品が見てみたかったですね」と惜しんだ。

最後まで手を加えながら未完のままになった「落石岬の鉄塔」は、広がる緑と青空に浮かぶ雲が印象的な一枚。設計図のように丁寧に描かれた図案、手仕事の跡が伝わる版木の他、筆や絵の具などの画材も並ぶ。

久子さんは「華々しいことが好きではない主人でしたが、あと5、6点作品ができれば個展をと言っていました。やっとやりたいことが見えてきた矢先、本人も無念だったと思いますが、多くの方に見ていただけるとうれしいです」と話している。

午前10時から午後5時(最終日は4時)まで。

繊細に表現された木版画が並ぶ(ギャラリー龍門)

繊細に表現された木版画が並ぶ(ギャラリー龍門)