カラー化写真が語る戦争 AI活用し出版

戦前・戦中のモノクロ写真は、戦後世代には文字通り色のない時代のように遠い存在に感じられることがある。当時の写真をAI(人工知能)と人の力でカラー化し、写し込まれた当時の世相や生活などについての豊かな対話の場を生み出そうという「記憶の解凍」プロジェクトが、東京大学大学院情報学環教授の渡邉英徳さんらの手で進められており、その成果をまとめた書籍『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』が出版された。

本書には約350枚のカラー化写真が収録されている。カラー化の作業は、まずAIでモノクロ写真に自動色付けすることから始まる。AIは人肌、空、海、山などの自然物のカラー化は得意だが、衣服や乗り物などの人工物は苦手だという。AIがするのはあくまでも「下色付け」であり、写真の提供者や戦争体験者との対話、資料、時代考証などをもとに、手作業で色を補正していく。

特に多く収録されているのは、広島と沖縄の写真。広島では、現在は平和記念公園となっている「中島地区」の戦前の街並みや人々の生活、だんらんの様子を写したものを見ることができる。

本書の共著者であり、高校時代から渡邉さんと共に同プロジェクトを開始し、現在は東京大学に在学している庭田杏珠さんが、被爆者らの個人蔵の写真を、地道な対話を通してカラー化していった。

1935年ごろの花畑での家族写真については、認知症を患い、対話も難しかった人が、カラー化写真を目にしたのをきっかけに原爆で失った家族の思い出を生き生きと語り始め、小さな花々がタンポポであったことなどが分かり、再度の色補整により、在りし日の家族の姿をよみがえらせることができた。

沖縄については、戦前の市場や漁の様子などの写真とともに、凄惨を極めた戦闘の様子が、生々しい色彩となって目に飛び込んでくる。

戦前の写真では、にぎやかな繁華街、幼稚園のお遊戯会など現代と変わらない暮らしがある一方、防毒マスクを着け、野原で戦争ごっこをして遊ぶ子どもたちのような、無邪気ながら世相を色濃く感じるものもある。

日米開戦の後は、激しい戦闘や空襲などの他、戦死者の遺骨を手にした葬列、「欲しがりません勝つまでは」などのスローガンを人々に説く集会の様子などの写真が見られる。

アメリカでは日系人が迫害され、和歌山をルーツとする移民も多くいたマンザナー強制収容所を写した、極めて状態の良い写真もある。

カラー化により、色のない遠い時代の出来事と思われたものが、現代の私たちと同様の生活が確かにあった、その時々の「今」であることが強く感じられ、自分との距離が大きく縮まっていく。

戦後75年の節目であり、新型コロナウイルスの世界的流行の最中に本書が出版された意義について、庭田さんは本書の結びに「私たちの平和な日常が疫病によって突然奪われてしまった今の状況と重ね合わせることで、戦争は遠い過去の出来事ではなく、これからの私たちにも十分に起こりうるものだということを、より自分ごととして想像してもらえる時だと感じます」とつづっている。

『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(庭田杏珠・渡邉英徳共著、光文社新書、税別1500円)

 

カラー化写真により戦前・戦中の時代が生々しくよみがえる