人生刻んだ鉛筆画 14日まで栗本邦男さん回顧展

両目がほとんど見えなくなるまで鉛筆画を描き続け、昨年10月に69歳で亡くなった和歌山県和歌山市の栗本邦男さんの回顧展が14日まで、同市の県民文化会館特設展示室で開かれている。4年間という凝縮された期間に描いた中から、18点を展示。大画面に描かれた細密な黒と白の表現が見る人を驚かせている。

栗本さんが緑内障で左目の視力を失ったのは50歳の時。その後、描きたい衝動に駆られて半年ほど絵画教室へ。以後は独学で腕を磨いた。右目も徐々に見えづらくなる中、人物画を中心に、内面世界を写したかのような精神性の高い鉛筆画を残した。

会場には公募展の入賞作など大作を中心に紹介。90歳を超えた自身の母親を題材にした作品は、顔の深いしわや髪の毛の一本一本までが丁寧に描き込まれている。その他、自画像や両手から砂がこぼれ落ちる様子を表現したものなど、心情を重ねた作品が並ぶ。

高校の同級生で、親交のあった元中学校美術教諭の中東照茂さん(70)は「白黒のグラデーションだけで、なかなかこれほどの質感は出せない。鉛筆の扱いに慣れており、白黒の世界を全うしている」と評価。訪れた同市の女性は「力強さやエネルギーを感じます。鉛筆1本にこれほどの可能性があるなんて。描かれている人の人生が画面ににじみ、涙が出そうになるほど心が震えます」と見入っていた。

栗本さんの遺志を継ぎ、個展の準備を進めてきた妻の眞知子さん(64)は「主人が目指した黒と白の世界。個展の開催という夢に見たこの光景を、きっと喜んでいるはず」と話している。

午前9時から午後5時(最終日は3時)まで。

 

胸に迫るような大作が並ぶ会場