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いよいよ本日公開!! (第7回) |
![]() この連載を書くことで、映画ができるまでのたくさんのことを振り返ることができました。「盲目の少女と、美容師の話」。このたった一つのアイデアから始まったこの映画は、和歌山市が舞台となり、そこにある景色、街並み、人々との触れ合いからストーリーが作られていき、そのストーリーを実現するための力強いスタッフ・キャストが集結し、地元の方々の協力のもと事故なく無事に撮影を終え、そして編集を終えてつながれた98分の映画は、ついに今日、県内の5館の映画館で公開を迎えることになります。 映画ができるまでの過程は複雑で、困難がつきまとい、必死にもがきながら作り上げたとしても、その映画を劇場で公開できるとは限りません。年に何本もの映画が公開できず、お蔵入りとなる現実があります。そのような中で、完成した映画を劇場で公開できる、このこと自体が奇跡のようなことです。 映画『ちょき』は、全編を和歌山市で撮影しました。和歌山市の方々をはじめ、この映画に関わっていただいた皆様に『ちょき』は支えられ、本日産声を上げる、とても愛された幸せな映画です。 舞台となった和歌山の方に、まずこの映画を届けられることが一番大事だと思っています。ぜひ劇場に足を運んでいただき、なじみのある街並みを舞台にしたこの映画を見ていただき、そして劇場を出た後も、そこに広がる和歌山の街の中に、この映画の面影を感じていただけたらうれしいです。 映画は和歌山での公開後、東京をはじめ、全国で順次公開が決まっています。きっと和歌山市の美しさは、この映画を通して全国に伝わるはずだと思います。最後となりますが、映画『ちょき』の制作に携わっていただいた皆様に、心より感謝申し上げます。本当に、ありがとうございました! |
盲学校での出会い (第6回) |
![]() 撮影に入ることをクランクインと言いますが、スタッフはクランクインの少し前から、現場である和歌山市に入り、ロケハンを進めてスケジュールを組んでいきます。 この映画の重要なロケ地の一つに、盲学校があります。映画に出てくる盲目の少女が通う学校です。私が初めて和歌山市を訪れた際、市内に盲学校があるという話を聞きました。その和歌山盲学校を取材で訪れることができ、そして校長先生、職員の皆様の多大な協力を得て、撮影場所として和歌山盲学校を使用させていただくことができました。本当に、奇跡のようなことです。 映画はフィクションですが、そこに出てくる世界、そして人物たちに説得力があるからこそ、映画は見た人の心に届くものになると、私は思っています。クランクインの前日、盲目の少女役の増田さんと共に和歌山盲学校を訪れ、校内を巡り、そして在学中の全盲の生徒さんと直接お話しさせていただくことができました。この体験が増田さんの演技にとって、本当に大きな力になったと思います。 そして昨年の12月中旬。いよいよ撮影が始まりました。この撮影のために、準備を重ねてきたのです。スタッフ・キャストが一体となって、2週間弱の撮影に、後悔なきよう全力で挑みます。 映画の撮影には困難がつきものです。外での撮影では、天候が大きく作用します。晴れのシーンで雨だったり、雨のシーンで晴れてしまったり…。天気予報の確認が、毎日の日課になります。天候が変わるたびに、スケジュールも変わります。 また12月といえば、真冬。寒さとの戦いです。暖かい室内でも、せりふをしっかり録音するために本番中は空調を切ります。外での撮影は、冬の強風にさらされ、体力を奪われ続けます。そのような中でも、和歌山市の皆さんの支えによって無事に撮影を進めていくことができました。真冬の撮影でも、皆さんからいただいたご協力は、本当に温かいものでした。 |
脚本とキャスティング (第5回) |
![]() 和歌山を訪れて脚本を固めていく一方で、映画に出ていただく役者を見つけなければなりません。この映画の主演は2人。盲目の少女と、美容師。監督だけでなく、プロデューサーも一緒になって、キャスティングを考えていきます。 まず盲目の少女役についてですが、以前、私の短編映画『転校生』に出演していた増田璃子さんという女優の名が挙がりました。『転校生』という短編は日本だけでなく海外でも上映され、増田さんの演技も高く評価されていました。それから3年ほどたっていたのですが、増田さんと直接会ってこの映画の話をして、盲目の少女、サキの役をお願いすることになりました。増田さんの持つ深い眼差しが、この役の決め手でした。 続いて、美容師役。当初は和歌山市の外れにある美容室で孤独な生活を送っている…という役でしたが、じゃんじゃん横丁と出会い、そこにある美容室での撮影が決まった時点でキャラクターを変更しました。なぜなら、じゃんじゃん横丁に孤独な人は店を開かない、そう思ったからです。この辺は監督によるかと思いますが、私は撮影する場所に、本当にその人物がいるのか、そこで呼吸しているのか、といったリアリティーを大切にしたいと思っています。 ということで、美容師の直人という役は、そこまで孤独ではなく優しいオーラを持っている、しかしやはりどこかに孤独を抱えている…というキャラクターに。吉沢悠さんの名前が挙がったとき、直人は吉沢さんだ! と思いました。和歌山を訪れ、たくさんの方たちと出会う中で、吉沢さんが和歌山で生まれ、そしてじゃんじゃん横丁で美容室を営む情景が、すっと浮かんだのです。その後、吉沢さんにお会いし、直人役をお願いすることができました。 増田璃子さんと吉沢悠さん。この2人の芝居は本当に見事です。ぜひ劇場で皆さんに見てほしいです。見てほしいというより、スクリーンを通してこの2人に会いに行ってほしいです。きっと映画の中の2人は、映画が終わった後も和歌山で暮らしている、そう思っていただけるはずです。 |
奇跡的な出会い (第4回) |
![]() 「青空とんび」というそのお店の中をのぞいてみると、店内には1枚の大きな鏡、1台の理容椅子、そして1台のシャンプー台。映画の設定では、店主がたった一人で美容室を営業しています。その設定に合う美容室は見つからないと思っていましたが、じゃんじゃん横丁に発見! 奇跡だと思いました。 店主の中居さんも、快く撮影に協力してくださることになり、この映画の舞台の1番の肝であった美容室が決まりました。そして美容室が決まると同時に、その美容室があるじゃんじゃん横丁も撮影の舞台となります。横丁のレトロで温かい雰囲気が、美容師のキャラクター設計に大きく影響しました。 映画『ちょき』は、オリジナル脚本です。原作もありません。美容師と盲目の少女の話、という原案に、和歌山市の風景、そしてじゃんじゃん横丁の美容室といったロケーションが加わっていくことで、映画の骨格となる脚本を具体的に書き上げていくことができます。何度か和歌山市を訪れ、そしてそこで出会った人々との交流を通じて感じたことを、映画に出てくる登場人物のキャラクターにも反映させていきます。 当初の脚本では、美容師は、街の外れにある寂しい美容室で一人孤独に暮らしているという設定でしたが、実際に私が和歌山市を訪れ、そしてじゃんじゃん横丁に出会ったことで、キャラクターを大きく変更しました。こうした作業が、オリジナル脚本で映画を作る醍醐味でもあります。原作があれば、原作に書いてある場所で、物語を忠実に再現していくことが求められますが、今回の『ちょき』は、実際に自分でその場所に行き、感じたものをそのまま脚本にしていくことができました。そしてそれは、和歌山市の方々の協力なしには成し得ないことでもあります。 いい映画を作るには、しっかりと準備を進めていくことが大切ですが、その過程で起こる奇跡のような出来事が、映画にとって大きな力になります。じゃんじゃん横丁との出会いは奇跡でしたが、この映画にとっての奇跡は、まだまだありました。 |
美容室が見つかった! (第3回) |
![]() 『ちょき』の主な舞台は、美容室です。この美容室を探すことが、非常に大変なことだとスタッフ内で話していました。撮影のために、0から美容室を作ることも予算的に難しい。となると、今現在、美容室として営業をしているお店をお借りして撮影をするしかない。しかし美容室のシーンの撮影は、短くても1週間近くかかりそう。その間、そのお店は営業できなくなってしまう。それを了承して、撮影に協力していただける美容室はあるのだろうか――。 ダメ元で、和歌山市内でお借りできる美容室があるか、市の方たちに探していただきました。1軒でも見つかればいいなとスタッフと話していました。すると…。次から次に、撮影可能な美容室が見つかっていきました。和歌山市のためならと、撮影に協力してくださる方が数多くいらっしゃったのです。私たちは驚きました。こんなことがあるのか、と。東京だったらまず見つかりません。和歌山の方たちの心意気に触れ、胸が熱くなったのを覚えています。 『ちょき』に出てくる美容室は、男性美容師が1人で営む小さなお店。その条件に合いそうな美容室を順に見させていただきました。何軒か見て回っていくと、とても魅力的な場所に案内されました。それが、「わかやまじゃんじゃん横丁」。タイムスリップしたかのような、とてもレトロな商店街がまちの中にあったのです。映画のセットのような、隅々まで作り手のこだわりが行き届いたような、魅力的な商店街。ここにも美容室があるのだろうか。淡い期待を持って商店街を歩いていると、その美容室があったのです。 |
和歌山市の第一印象 (第2回) |
![]() もちろん直感だけではありません。ずっと温めていた映画の企画があったのです。「美容師と、盲目の少女の話」。映画というのは、いつ、どこで、どのような形で実現するか分かりません。そのときが来るのに備えて、映画の企画をいくつか温めておくことが、監督にとって大切なことです。「美容師と盲目の少女の話」という企画は、まだ設定でしかありませんでしたが、プロデューサーからの連絡を受け、この設定に〝和歌山市〟というロケーションが加わりました。 企画の映画化のためには、まず脚本を作る必要があります。私はまず和歌山市に行き、脚本作りのためのロケ地巡り、シナリオ・ハンティング(通称シナハン)を行いました。昨年の春ごろに最初のシナハンを行ったのですが、初めて降り立った和歌山市の印象は、まず空が青く、広い、というものでした。東京で暮らす私にとって、その空が、より魅力的に映ったのだと思います。 JR和歌山駅でプロデューサーと合流し、市内を車で案内していただきました。車窓から見える和歌山市内は、レトロな街並みも残り、人の暮らしが見える温かさを感じました。しばらくすると、広大な紀ノ川が見えてきました。そこに架かる何本もの橋、そして紀ノ川の先にある、とてもきれいな海が印象に残っています。 和歌山市は夕日がとてもきれいだと聞きました。磯の浦に降りると、きれいな浜辺の先に、澄み渡った空気と海を照らす夕日が見えました。本当にいいところだ、と心から思いました。この地に、美容師と、盲目の少女がいる。最初のシナハンを終えて、脚本を書くために東京に戻りました。和歌山市に魅了されたので、後ろ髪を引かれる思いでした。 |
まずは自己紹介を (第1回) |
![]() 私は1983年生まれの33歳、男性。育ったのは埼玉県ですが、生まれたのは八丈島です。毎年夏休みは八丈島に帰省し、自然に囲まれながら育ちました。大学在学中に、ドキュメンタリー映像の製作に携わり、その後映画監督の道を目指して自主映画などを作り、2013年に『ゆるせない、逢いたい』という映画で劇場公開デビュー。国内をはじめ、韓国やフランス、さらにモロッコや台湾など海外の映画祭での上映や評価をいただきました。今回の映画『ちょき』が、公開作としては3作品目になります。〝見た人の心に届く映画を作りたい〟と思い、映画監督をしています。 『ちょき』は、盲目の少女と、美容師のおじさんが主人公のお話です。2人は昔からの知り合いで、10年ぶりに再会するところから、物語が動き出します。この映画は昨年12月、全編和歌山市内で撮影を行いました。和歌山の持つ魅力的なロケーション、協力していただいた地元の方々の温かさに支えられ、『ちょき』は完成しました。映画ができるまでには、さまざまな困難、苦労、偶然、そして奇跡が重なりました。次回以降、そのエピソードをここでお伝えし、読者の皆さんと『ちょき』を共有できたらと思っています。公開まで、一緒に皆さんと盛り上がっていけたらうれしいです。 |