九州戯曲賞 海南出身の木下さん

 九州に拠点を置き活動する劇作家の優れた作品を顕彰する「九州戯曲賞」(九州地域演劇協議会、NPO法人FPAP主催)の大賞に、海南市出身の九州大学(福岡県)工学部2回生、木下智之さん(20)の『喜劇ドラキュラ』が選ばれた。怪人ドラキュラのモデルとなったワラキア公ヴラド3世の愛と戦いと裏切りに彩られた生涯を、一風変わった喜劇調に描いた。本格的な長編に初めて挑んだという当時19歳の作品は審査員をうならせた。

 同賞は九州地区の演劇レベルの向上を目的に、平成20年に両団体により設立された。

 最終選考の5作品の中から、5人の演劇関係者によって審査され、木下さんと福岡県筑紫野市の男性の2作品が同時受賞した。19歳での受賞は同賞最年少。

 木下さんは智弁和歌山中学・高校を卒業。中高で演劇部に所属し、現在大学でも演劇部の部員として役者、脚本や演出、舞台装置などを担当している。

 今作は、もともと同部公演のために書き始めたもの。完成が間に合わず上演を諦めていたところ、思わぬかたちで評価を受けることとなった。受賞には「演劇界の名だたる方々に評価を頂け、身に余る光栄です」と喜んだ。

 受賞戯曲『喜劇ドラキュラ』は、ドラキュラという人物と彼の生きた時代を描いたもの。木下さんは史実を調べ上げ、そこに想像力を膨らませて仕上げた。「喜劇の本質は自業自得」という木下さんの持論を、極端なかたちで表現したという。

 諸外国の圧迫に苦しむワラキアの姿に今の日本を重ね合わせ、国防や愛国といった問題について、社会への問題提起も盛り込んだ。

 その壮大なスケールに、審査員は「これほど大きな構えのホンを見るのは、九州戯曲賞では初めて」「演劇が忘れかけているダイナミズムと劇的なるものの興奮に溢れた野心作」「ひときわ異才を放つ作品」などと称賛した。

 木下さんは「いつかこの作品を自分の手で上演するのが夢。受賞を励みに一層精進し、これからも歴史に基づいた出来事を面白おかしく作品にしていければ」と話している。