及川さん経産相賞 県内初ベンチャー表彰
和歌山市黒田に本社を置く農業ベンチャー㈱農業総合研究所の及川智正代表取締役CEO(41)が、「Japan Venture Awards 2016」(JVA、中小企業基盤整備機構主催)で最高位の「経済産業大臣賞」を獲得した。革新的で地域に貢献できるベンチャー経営者を表彰するもので、県内からのJVA受賞は初めて。
JVAは平成12年に始まり15回目。前回までに計241人が受賞している。今回は全国から138件の応募があり、各賞合わせて計14人が選出された。
及川代表は東京出身。結婚を機に和歌山で新規就農し、生産と販売、両方の現場を経験した。その時聞いた「農業はもうからない」という声から、「日本、世界から農業がなくならない仕組みをつくりたい」と決意。平成19年に同社を立ち上げた。元手は50万円だったという。
持続可能な農産業の実現に向け、「ビジネスとして魅力ある農産業の確立が必要だ」と、情報技術(IT)を駆使し、全国の生産者とスーパーを直接つなぐ新しい流通システムを開発。各地のスーパーに「農家の直売所」コーナーを設け、そこに生産者が自由に出荷できる仕組みを作り上げた。
目指したのは、農家を「メーカー」にする▽公平で自由に競争できる環境を整備する▽「ありがとう」がちゃんと届く――こと。毎日、全国の集荷場に出荷される作物をスーパーに届ける。生産者は好きな作物を作って自分で値段設定し、出荷先を選び、いつでも好きな量を出荷できるようにした。
また、いままでの農業は「『ありがとう』『おいしかった』が聞こえてこなかった」(及川代表)。消費者の声が生産者に届くことが重要と考え、消費者の声を集め、毎日メールや電話で生産者に伝えている。将来的には消費者が直接、生産者に連絡できるような仕組みも作っていくという。
その他、どこのスーパーで何がどれだけ売れている、といった売上情報の提供もしている。ITを使うことで、従来できなかった農産業を実現させた。
農業界の反応は数字に表れている。当初、1集荷場、スーパー2店舗、生産者20人から始まった取り組みは、2月29日現在、山形から沖縄まで全国55集荷場、593店舗、生産者5222人にまで急速に拡大した。
先月、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで表彰式が行われ、鈴木淳司経済産業副大臣から及川代表に賞状とトロフィーが贈られた。
及川代表は「当たり前のことだが、頑張った人がどんどん大きくなれる環境をつくりたかった」と言い、「東京や大阪の受賞者が多い中、頑張っていれば地方ベンチャーでもちゃんと正当な評価を頂ける、ということがうれしかった」と喜びを見せる。
今後は出荷先を海外に広げるなど世界展開も見据え、「誰よりもスピード感を持ってリスクを背負い、誰もつくったことがないようなビジネスを創造していく〝農産業創造ベンチャー〟を目指す」。企業理念「農業に情熱を」を胸に、及川代表の熱は和歌山から世界へと広がる。