伝承と家系図が示す東城跡 川永地区で発見

「ここに中村城主とはっきり書かれていますね」――。和歌山県和歌山市楠本の中村?(しげる)さん(91)の自宅で、日本城郭史学会委員の水島大二さん(72)が中村家系図をのぞき込んだ。

和歌山市東部、紀の川右岸に位置する山口西から楠本にかけての地域で2017年、道路工事に伴う発掘調査が行われ、中世にこの地で勢力を誇ったとされる中村氏の居館「東城」とみられる堀跡が見つかった。乏しい史料と地元の人々の伝承を頼りに30年以上「東城跡」を探してきた水島さんをはじめ、多くの関係者がこの発見を喜び、中村さんも「代々口伝えに聞いてきた東城は本当にあったんだ」と驚いた。

中村さんと水島さんはこのほど、中村家に平安時代から伝わるという家系図を広げて語り合った。「幼い頃から〈トウジョウ〉という言葉を聞かされていた」と中村さんは遠い昔を振り返った。

明治から大正時代にかけて書かれた郷土誌には、「古邸跡(中村喜内ノ家系ニ因ル)一に東城ト云ウ川辺域内ニシテ字北垣内ニ隣スルトコロ(中略)荘司中村氏ノ居城趾ナリト云フ」と、中村氏の居城跡であったことなどが記されていた。

水島さんは「これらは二次史料にすぎず、『中村喜内ノ家系ニ因ル』とされており確証がなかった。だからこそ、史料の元となる家系図が実際にあったということ、またそれをこの目で確認できたことは大変意義のあること」と、家系図を前にして喜んだ。

「今回の発見は、伝承があれば遺構が確認されていなくても、土の下に眠っている可能性があるという良い例になった。私たちは地域の伝承を消滅させないようにしっかりと後世に伝えていかなければならない」と水島さん。まだ見ぬ城跡が今後も発見される可能性に思いをはせる。

今回の堀跡の発見と家系図との一致を受け、水島さんは13日午後1時半から3時半まで、和歌山市川永支所2階会議室で講演する。

同地区の「ふれあい・いきいきサロン」の一環で、テーマは「中村荘の東城と周辺城館」。地域住民に向け、これまで調査してきた伝承や記録、発掘への経緯などを紹介する。

参加無料、申し込みは6日締め切り。問い合わせは同支所(℡073・461・1004)。

家系図を広げ説明をする中村さん㊨と水島さん

家系図を広げ説明をする中村さん㊨と水島さん