2度目の国体スターター 陸上の西口さん

 「オンユアマークス…セット…」――。紀の国わかやま国体の陸上、少年男子A5000㍍で、スタートを告げる号砲が紀三井寺公園陸上競技場に響いた。スターターを務めたのは西口政雄さん(67)。5000㍍種目は、44年前の黒潮国体で西口さんが初めてスターターを担当した思い出の種目で、西口さんの念願の夢がかなった瞬間だった。

 岩出市出身。同市陸上競技協会会長、いわでアスリートクラブ代表などを務める他、きのくにエクセレントコーチとして、粉河高校陸上部の指導に当たる。

 那賀高校で陸上を始め、自身も3年の時に400㍍で岐阜国体に出場。日本体育大学に進み、400㍍ハードルでインカレ出場など、活躍した。大学卒業後は約40年間、和歌山市の中学校で教諭や校長を務め、その間は陸上部顧問として指導を続けた。

 今国体ではスタート審判長を務めた。「2度の国体に、現役で関われるのは大変ありがたいこと。地元国体でのスターターは、ずっと夢だったので感無量でした」と柔らかな笑顔を見せる。

 黒潮国体は競技での出場はならず、出発合図員(スターター)として関わることに。当時の競技場は現在のように設備も整っておらず、土のグラウンド。計測も、階段に並んだ役員がストップウオッチで、ピストルの煙の合図を見て測っていた。

 「当時は、まだスターターに成り立て。緊張やドキドキした思いで、震えていたようにも思います」

 以降、さまざまな大会でスターターを務め「この国体で、もう一度スターターができたら」と思い続けてきた。「うれしさのあまり、『オンユアマークス』(「位置について」を意味する合図)は力が入り過ぎ、声が大き過ぎたかもしれません」と笑う。

 緊張感が漂うスタート。号砲までには一連のリズムがあり、自分も選手になった気持ちで合図をするよう心掛けている。「うまくスタートしてくれよ、よし行け」――、選手の背中を押すつもりでピストルを鳴らす。

 指導者としても手腕を発揮。多くの国体選手を送り出し、今国体でも教え子たちの活躍が光った。

 長年の夢がかなった今は、もう一つの大きな夢がある。これまでに日本3位の選手を育てた実績があり、「日本一の選手を育てるまでは現役をやめない」、そう心に決めている。

 「私もスポーツに育ててもらったようなもの。少しでも恩返しがしたい」――。そのゴールを目指して、全力で走り続ける。

黒潮国体に続きスターターを務めた西口さん

黒潮国体に続きスターターを務めた西口さん