飯舘村の天井絵復元に尽力 和大加藤教授ら
東日本大震災による原発事故の影響で全村避難が続く福島県飯舘村の山津見神社で、3年前の火災で焼失したオオカミの天井絵が復元された。火災の2カ月前、研究のため神社を訪れた和歌山大学観光学部の加藤久美教授(55)と、サイモン・ワーン特任助教(59)が奇跡的に写真を撮影しており、記録を基に、東京藝術大学大学院の学生たちが新たな命を吹き込んだ。天井絵は7月3日まで、福島県立美術館で開催中の「よみがえるオオカミ―飯舘村山津見神社・復元天井絵」展で紹介されている。
ニホンオオカミをめぐる信仰を調査しようと、加藤教授はワーンさんと共に、平成24年12月に同神社を訪れた。同神社は永承6年(1051)に創建。明治37年に建築された拝殿には、3面にわたって237枚のスギ板に、自然の中で生き生きと暮らすオオカミの姿が描かれ、二人はその壮観さに驚かされたという。
絵画は地方絵師によって描かれたものと伝わる。雨水がにじんで変色や傷みが激しく、宮司の妻・久米園枝さんの「保存状態も良くない。何も記録を残していないんです」との言葉に、「せめて写真で記録を」と、同日と翌年2月にも訪れ、ワーンさんが1枚ずつ撮影した。
25年3月末には、それらをまとめた3冊のフォトブックが完成。「これを見せれば、きっと安心してくれるはず」――。拝殿全焼の知らせは、そんな矢先のことだった。さらに、園枝さんが火災で亡くなったことを知る。
唯一の記録として写真集が残され、加藤教授は「これで何かしなさいと言われているようだった」と振り返る。天井絵を復元できれば、復興の一つの道筋になるのではないか――。そんな思いから、プロジェクトが動き出した。
三井物産環境基金の助成を受け、東京藝術大学大学院の荒井経准教授指揮のもと、学生たちが協力。天井絵は、絵を忠実に再現するというのではなく、記録を基に、形や筆遣いを体で覚えながら写し取る「臨模」(りんも)という手法を用いた。若い学生たちが被災地に心を寄せながら描き、100年先へ受け継がれる新しい文化財をつくりたいという、関係者の思いからだった。
100年以上前に描かれたオオカミたちが、若き学生の手によって生き生きと鮮やかによみがえり、ワーンさんは「またここから新しい物語が始まる」と感じたという。
ちょうど100枚が完成した時、村の公民館で地域にお披露目をした。「あぁ、オオカミたちが帰ってきた」。村民たちは天井絵が地域の宝であったことを再確認し、喜びをもって迎えた。
加藤教授は、今でも、絶滅を逃れようと、ニホンオオカミたちの見えない力が働いたように思えてならないという。天井絵は展示後、帰村宣言が待たれる同神社に、平成29年春までに納められる予定。
加藤教授は幼い頃から大学までを、福島県の二本松市や会津若松市、岩手県や宮城県で過ごした。東北との結び付きも深く、いつまで続くか分からない復興への長い道のりを思う。
「これが地域の一つの力になることは間違いないですが『これで終わり』ではありません。いまだに何万人もの避難者がいることを知ってもらいたい。天井絵が今後どのような意味を持つのか、村の人たちが戻ってくる日まで、飯舘村との関わりは続きます」