伝統のミカン狩り復活 有田市の須谷地区

 全国ブランド「有田みかん」の産地として知られる和歌山県有田市宮原町須谷(すがい)地区で今月、戦後間もない頃から行われながら、途絶えていたミカン狩りが2年ぶりに再開される。高齢化が進み、作業の負担から栽培を断念する農家が増える中、伝統あるミカン産業の継承と活性化につながることが期待されている。

 宮原町の伝統産業を守ろうと、生産者や地元の旅館などが協力して行うプロジェクト。有田市中央部を流れる有田川沿いに位置する須谷地区は、ミカン栽培に適した土質と豊かな日照に恵まれ、香り高く甘みの強い「有田みかん」の産地として知られる。

 須谷地区では昭和24年からミカン狩りが始まり、観光振興に大きな役割を果たしてきた。28年に有田・日高地域を中心に甚大な被害が出た「7・18水害」の影響を受けたものの、31年ごろからの約10年間は、好景気の中、市がPRに力を入れたこともあり、観光バスで多くの人々が訪れ、にぎわいを見せた。その後、高速道路の開通で国道42号のバスの通行量が減り、レジャーの多様化などもあって来場者は減少の一途をたどり、平成27年には最後までミカン狩りを続けていた農園が閉園した。

 地区のミカン栽培を支えてきた農家は高齢化が進み、摘果作業の労力に苦慮して栽培を断念する傾向にあり、心を痛めた若手ミカン農家らが打開策を模索する中で、ミカン狩り復活のプロジェクトが動き出した。

 樹上での完熟や農薬使用量を半減させるなど、よりおいしく安全なミカン栽培の研究を重ね、収益向上などで実績を上げている的場農園(的場秀行代表)と生駒農園(生駒正剛代表)は、観光客に摘果をしてもらうことが、高齢化した農家の負担の軽減につながり、ミカン栽培を継承する一助になるのではないかと提案した。

 宮原町で明治36年創業の旅館「橘家」を営み、有田市観光協会の会長を務める橋爪正芳さん(76)は、須谷地区のミカン狩りの盛衰をつぶさに見てきており、地元の伝統産業を守ろうとする的場さんと生駒さんの提案を意気に感じ、PR活動などをサポートすることを決めた。

 橋爪さんはミカン狩りが始まった当時は小学生。ミカンの木と木の間にむしろを敷き、大阪から訪れた客とすき焼きを食べて楽しいひとときを過ごしたことなどを覚えている。

 ミカン狩りを再開する「スガイ農園」は、標高275㍍の岩室山のふもとに位置し、岩室山には平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての有力武士・湯浅宗重が築城したと伝えられる城址がある。橋爪さんは、ミカン狩りをきっかけに地区の歴史や文化にも目を向けてもらえればと願っている。

 ミカン狩りは12月初旬まで楽しめる。要予約で、入園料は大人800円、子ども(小学生以下)600円。午前10時~午後4時。予約、問い合わせは橘家(℡0737・88・7005)。

岩室山ふもとの農園で橋爪さん

岩室山ふもとの農園で橋爪さん