認知症の悩みを支援 家族の会の梅本さん
厚生労働省の統計などによると、高齢化の進展に伴い、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人、700万人以上が認知症になると予想されている。公的なサービスで担い切れない悩みも多く、本人や家族の支えとして民間団体の役割は増している。公益社団法人「認知症の人と家族の会」和歌山県支部代表、梅本靖子さん(60)は「本人や介護する家族の悲痛な悩みを少しでも緩和したい」と日々、認知症とともに生きる人たちに向き合っている。
同会は1980年に京都で設立され、県支部は81年に発足。約70人の会員がいる。
主な活動は電話相談、介護家族の交流会「つどい」、認知症カフェ、リフレッシュ旅行の開催、機関誌「ぽ~れぽ~れ」の発行など。最近は認知症の父母を介護する壮年層も増えており、「男性介護者のつどい」も企画。また、和歌山市からの家族支援の委託事業、認知症見守り支援員「メイト」の派遣にも力を入れる。
「認知症という言葉自体は広く知られるようになりましたが、正しく理解されているとは言い難く、まだまだ偏見もあります」と梅本さん。
有田川町出身。実母が認知症を患ったことなどから、ヘルパーの資格取得を思い立ち、介護の世界へ。現在は介護福祉士、介護支援専門員の資格を持ち、市認知症キャラバンメイト連絡会の副会長も務める。
認知症は本人にも介護者にも、心理的、身体的に不安や負担がのしかかる。家族であるがゆえに遠慮なく思いや感情を吐き出し合う場面も多くある。両者のつらさがよく分かり、一緒に泣いたり、笑ったり。相談にはいつも「この人のために何かできないか」と親身に応じる。
交流会などに参加できるのは周囲との関係が保てる人。認知症の中でも介護が難しいとされるピック病で暴れる人の介護者などからは、「心のやり場をどこに向ければいいのか」「母の首を絞めて自分も死んでしまいたい」と、思い詰めた電話相談も。保健所や地域包括支援センターと連携しながら、少しでも悩みが緩和されるよう導く。
自らも「メイト」として、訪問先では介護する家族に代わって見守り、友人のように過ごす。「本人がやりたいこと」を大切に、相手の話にじっくりと耳を傾けたり、散歩に出掛けたり。家族からは、訪れてくれる人がいることで、本人の心の安定にもつながっているとの声が寄せられる。
「程度にもよりますが、認知症になったからといって何もできない訳ではありません。周囲ができることを奪っている場合もあります」と指摘する。
認知症の高齢者から学ぶことも多く、梅本さん自身「先輩」と慕っていた男性が、口ぐせのように言っていた忘れられない言葉がある。
「1に工夫、2に工夫、3にまごころ」――。16歳から働き、小売店を立ち上げた男性の苦労話をよく聞かせてもらった。その言葉を胸に、本人や家族の気持ちに寄り添いながらより良い方法を考え、そこに気持ちを入れることを忘れない。
「認知症になっても、たとえ病気になっても『私は、わたし』。その人であることに変わりはありません。本人にとっても、家族にとっても生きやすい、優しい社会になってくれることを願います」
ことし25周年を迎えた世界アルツハイマーデー(9月21日)を記念した同支部主催のイベント「わたしはわたし~認知症つながる心が笑顔呼ぶ~」が、22、23の両日、県立図書館(同市西高松)のメディア・アート・ホールと研修室で開かれる。
高齢化社会に伴う認知症の他、「がん」について考える機会にしてもらおうと開催。両日は、認知症の夫と自身のがん闘病を抱えながらも2000点以上の絵手紙を残した宮﨑記代子さんの作品の展示や、認知症に関する映画を上映する。
22日は記念講演会と横山恭治さんのライブ、23日は認知症当事者のトークなどが行われる。入場無料で申し込み不要。
22日は午前10時半から午後3時半まで。23日は午後1時から3時50分まで。