メンテ不要への挑戦 はさみの名工・林さん
理美容師一人ひとりの要望に応え、高品質のはさみを作り続けてきた㈲ハヤシ・シザース(和歌山県和歌山市手平)代表取締役の林伸昭さん(58)が、卓越した技能者(現代の名工)として2018年度厚生労働大臣表彰を受けた。長年はさみの設計、製作に従事し、新たな技術、製品の開発に挑み続ける職人に、ものづくりへの思いを聞いた。
林さんは中学を卒業後、父が営む自転車店で働いていたが、17歳の時に交通事故で片足が不自由になり、自転車店を継ぐことを断念。3年にわたるリハビリを経て、20歳の時にはさみ職人の第一歩を踏み出した。「足がよくなかったので椅子に座ってする仕事しかなかった。当時は自転車やバイクを作ったり、改造したりしていたので、はさみ作りぐらい3日あればできるようになると思っていた」と振り返る。
しかし実際の職人の道は厳しく、はさみの形状、物を切る仕組みなど、その原理を正確に理解し、把握するまでに約10年を費やした。「基本に5年をかけ、10年でやっと一人前。最初の5年間は面白くなく、何度も辞めたい、逃げ出したいと思った」が、この道しかないと踏ん張り、独自の研究を重ね、職人の技術を身に付けた。
再び足の状態が悪化し、2年間のリハビリ生活の後、32歳で独立してハヤシ・シザースを設立。美容師一人ひとりのオーダーを聞き、最高の切れ味や耐摩耗性を保持し、メンテナンスが要らないはさみを追求してきた。
53歳の時、これまで培った技能を生かし、刃の部分に特殊な鋼材を使うことで切れ味に優れ、より丈夫で長持ちする高硬度、超耐磨耗性を備えたはさみの開発に着手。5年をかけて完成させた。今後はコスト削減に取り組み、数年のうちに製品化を目指す。
「自分が職人になったら、技術を盗まれることもない」とはさみ作りへの自信を口にする。現代の名工に選ばれたことについては、「周りの人の支えのおかげで今がある。感謝の気持ちでいっぱい。もちろん、自分もよく頑張ってきたと思う」と笑顔。「この仕事は天職。まだはさみについて気付いていないこともあると思うので、死ぬまで修業する気持ちで頑張ります」と抱負を語った。