技能実習は人づくりへの貢献 受入企業レポ
外国人技能実習制度を巡り、過重な労働環境や人権侵害など深刻な問題が各地で指摘されている中、日本の技能や技術を開発途上国へ伝え、各国の人づくりに貢献するという制度本来の目的を目指して外国人材を受け入れている企業も少なくない。貴志川工業㈱(和歌山県紀の川市貴志川町前田、吉田篤生社長)ではインドネシアの青年を受け入れて2年目。母国の工場で幹部として活躍する日を夢見る研修生と、彼らを支える同社の取り組みを聞いた。
同制度は、1960年代後半から海外の現地法人などの社員教育で行われていた研修を原型として93年に制度化。2017年11月には実習の適正な実施や実習生の保護などを規定する技能実習法が施行された。
同社で研修しているのは、17年6月に来日したミフタフル・フダさん(26)、18年9月に来日したリヤディさん(33)ら6人。染色業である同社の取引先、東洋紡㈱の子会社がインドネシアで運営する工場に勤務する幹部候補生だ。
吉田社長(52)が現地を訪れた際、工場の効率的な運営には人材育成が急務であることなどを聞き、幹部を目指す人を実習生として受け入れ、生産管理や染色技術の指導などを行うことを決めた。
研修は1期3年とし、毎年3人ずつ受け入れ、現在は1・2期生各3人が研修を受けている。先に来日したミフタフルさんは日本語での日常会話もできるようになっており、新たに迎えた2期生らのリーダー的役割を果たしている。
技術指導をしている生産部課長代理の瓦谷洋祐さん(31)は「1期、2期生として上下関係が築かれているため、実習生間の連携も取りやすいようです。実習生は学びたいとの意欲が強く、質問も多く、教えやすい」と話し、「私たちは慣れている業務でも、教えるために内容を確認するため、社員のレベル向上にもつながります」と受け入れ側のメリットも強調する。
実習生は、同社が借りている3LDKの2室に3人ずつ暮らしており、父親代わりとして同社取締役で生産部長の岡山雅亮さん(56)が、ごみの出し方や日用品の買い物など生活習慣に至るまで細やかにアドバイス。実習生と社員の関係も友好的で、社員が自宅や地域に実習生を招き、餅つきや釣りなどを楽しみ、日本文化に親しむ機会も多いという。
ミフタフルさんは「貴志川工業はとても良い会社です。仕事のタイミングと考え方をしっかりと学んで、将来は祖国の工場のリーダーになりたいです」、リヤディさんは「冬を迎えて、電気屋さんで買い物をしたのが楽しかったです。和歌山はとてもきれいです」と笑顔で話す。専門的な技術に加え、日本語の習得や異文化への対応など苦労は多いが、実習生は母国の工場で幹部として活躍する日を目指し、懸命に研修に取り組んでいる。
吉田社長は「実習生の姿を、世界情勢や日本の企業が何をするべきかを知る道しるべとしても捉えている」と話し、ミフタフルさんらの成長を喜んでいる。