埴輪設置し復元整備完成 風土記の丘の古墳
和歌山県立紀伊風土記の丘(和歌山市岩橋)が進めてきた6世紀の前方後円墳「前山A58号墳」の復元整備が完成し、10日に記念セレモニーが行われた。出土した埴輪(はにわ)の実物大レプリカを墳丘に設置し、古墳時代の首長やみこ、埴輪職人に扮(ふん)した参加者が、当時の葬送儀礼を再現した。
前山A58号墳は特別史跡・岩橋千塚古墳群の一部で、6世紀前半に造られた小型の前方後円墳。2009年からの発掘調査で墳丘上に多数の円筒埴輪や形象埴輪、須恵器大甕(すえきおおがめ)が設置されていたことが明らかになり、「古墳とは何か」「古墳ではどのような儀礼が行われたのか」を知る有力な手掛かりとなった。
古墳の復元整備に向けては、出土した埴輪の実物大レプリカを作るイベントを4年にわたって開き、福岡や兵庫、大阪など県内外から延べ95人が参加し、高さ約45㌢の円筒埴輪をはじめ65基のレプリカを制作した。
セレモニーには来賓や復元に携わった関係者ら約70人が出席。先立って埴輪設置式が行われ、制作者らが古墳時代の装束を身に着けて埴輪職人に扮し、自らロープや背負子(しょいこ)を使って、埴輪を竪穴住居から古墳まで運び、調査結果で明らかになった配置図を基に、墳丘上に65基を並べていった。
福岡県から埴輪作りに参加し、セレモニーではみこ役を務めた中村麻衣子さん(39)は、SNSで埴輪の復元イベントを知って応募したという。自他ともに認める考古ファンで、15年に九州国立博物館が考古好きの女子のために発足した「きゅーはく女子考古部」の1期生。「埴輪作りは子ども向けのイベントが多く、作って終わり、というのが一般的。こちらのイベントは大人も参加できるとあって迷わず参加させてもらいました」と中村さん。
埴輪の材料となる粘土の砂の量も当時の配合を再現し、これだけ大きな埴輪を一般の人が制作する復元整備は全国でも例がないという。「自分が作った埴輪を古墳に設置してもらえるなんて、こんなうれしいことはないです。これからも時々埴輪に会うために和歌山に来ます」と笑顔で話した。
復元プロジェクトの発案者で学芸員の萩野谷正宏さん(44)は、地域の史跡は研究者や学芸員のものではなく地域みんなのものだと強調する。「愛着を持ってはじめて次の世代に残すことができるものだと考えています。今回参加してくださった皆さんの熱意に深く感動しました。今後もこのような取り組みを続け、多くの人に参加してもらいたい」と話していた。