「今」を知り発信 県と山東省相互交流発展へ

 和歌山県と中国・山東省の友好提携35周年を記念して行われたファムトリップでは、日本・和歌山からの観光客が減っている現状がある一方で、トイレや食品安全など日本人が中国について不安視しがちな点がすでに大きく改善しているなど、日中双方がお互いの「今」を知り、発信することに課題があることが浮き彫りになった。10月には仁坂吉伸知事が省を訪問し、記念年は山場を迎える。ファムトリップ同行記の締めくくりに、双方の関係者の思いや今後の展望を紹介する。

 中国では、行政組織の改革として文化と旅游(観光)の部門が合併し、文化を中心として観光振興を図ることを掲げている。ファムトリップの視察先にもその方針が見受けられ、博物館が多く組み込まれていた。

 分野を特化した施設も多く、?博(しはく)市では、春秋時代の斉で生まれた蹴鞠(けまり)の歴史を紹介するサッカー博物館があり、鞠の製作技術を代々受け継いできた第一人者の女性による実演と解説もあった。

 伝統工芸の技術は、明・清王朝時代からの商店街が残る「周村古商城」でも見られ、仏教の七宝に数えられる鮮やかな瑠璃(るり)細工の職人・鄒大軍さんの仕事風景を見学することができた。

 周村ではかつて外国人も商売をし、元は日本人が経営していた店もあり、さらに、さまざまな時代の建築様式が街並みに見られ、街そのものが生きた建築博物館とも呼ばれる。

 これらの場所は日本での知名度は低いが、十分に魅力ある観光地であり、知ってもらえれば人気が出る可能性はある。食事も日本人の舌になじみやすいものが多く、衛生面も含めて大きな不安は感じられなかった。

 日本人観光客が多い中国の都市は上海や北京、西安など。ファムトリップの団長を務めた県国際課の岡澤利彦副課長は「今、人気のある場所はイメージ戦略によるところが大きい」と話し、県民や日本人に山東省の魅力を知ってもらい、確かなイメージを持ってもらうことが、相互交流を促進する大きな力になると考えている。

 意見交換会で山東省の旅行業者から、日本からのインバウンドが大きく落ち込んでいるとの話があり、この状態が続けば、日本語対応のガイドやスタッフの後継者を育て、確保することが難しいと訴えていた。業者だけでなく、友好関係にある省と県にとっても大きな損失になりかねないだろう。

 ファムトリップの手配を担当した山東海外国際旅行社(青島市)の王偉社長は「和歌山と山東省はとても近い。来るかどうかは勇気だけの問題。料理はおいしく、交通は便利、料金も安い。週末だけなど短い滞在期間でも楽しんでもらえる。安心して来ていただきたい」と呼び掛けていた。

 県は山東省へ国際課職員の派遣を続けており、ファムトリップには2017年9月から駐在中の川口喜寛副主査、14年9月から17年3月まで駐在した梶本堅史郎副主査も同行。

 川口さんは「中国の人は、知り合って間もなくても『よく来た』と言ってくれる。人を大切にし、親切にする文化を感じる」と話す。

 梶本さんも同じ思いを持っており、日本では少し偏見があると感じている。

 滞在中には、QRコードによるキャッシュレス決済やシェアサイクルが急速に普及し、生活スタイルが一変するのを目の当たりにし、変化がとても早い国だと実感した。「今の山東省をもっと理解してくれる人が増えてくれれば」と強く願っている。

 ファムトリップによる新たな旅行商品の開発をはじめ、友好提携35周年を節目に、山東省との相互交流が進むことが期待されている。

 【山東省視察ツアー同行記連載は須磨伸一編集部次長が担当しました】

周村で瑠璃細工の技を披露する鄒大軍さん

周村で瑠璃細工の技を披露する鄒大軍さん