かがり火照らす幽玄の世界 日前宮で「薪能」
第44回日前宮「薪能」が26日、和歌山県和歌山市秋月の日前宮(紀俊武宮司)で催され、かがり火が照らす境内の能舞台で演じられる能と狂言の世界を、約800人が楽しんだ。
開演の少し前まで小雨が降り、かがり火がともされた頃には、同宮の上空に虹がかかり、紀俊崇禰宜は「44回の歴史で初めてのことだと思います」と感慨深そうにあいさつした。
同市吹上の観世流能楽師・小林慶三さん(87)が主宰し、ことし創立100年を迎えた「小林観諷会(かんぷうかい)」一門が今回も出演し、小林さんが仕舞「杜若(かきつばた)」を、小林さんに指導を受ける同市出身で近畿大学工業高等専門学校4年生の宮楠昂之さんが仕舞「経正」を舞った。
茂山逸平さんらによる大蔵流狂言「茶壺」では、道端で寝込んでしまった男の茶壺を奪おうとした盗人が、目を覚ました男に茶壺は自分のものだと言い張り、巻き起こる騒動が滑稽に演じられた。
最後は観世流の分林道治さんらが能楽「山姥(やまんば)」を披露。遊女と従者が信濃の善光寺へ参詣する途上、一夜の宿を貸してくれた女が山姥だと分かり、その境涯を語る様子が、緩やかで優美な舞と謡で表現された。
初めて訪れたという市内の40代の男性は「直前に雨がやんで、涼しい風が吹き抜ける境内で、心地よく狂言と能を楽しめました」と笑顔で話していた。