「陰と陽の世界」を表現
前号では、水戸藩9代藩主・徳川斉昭が造営した偕楽園には、外国船の来航に備えた海岸防衛の役割があり、園内に植えられた多くの梅の木は、収穫した梅を飢餓や戦時の非常食として活用する目的があったことを取り上げた。今週は偕楽園の園内の構造や斉昭による工夫を紹介したい。
偕楽園には100種3000本に及ぶ、豊富な品種の梅の木が植えられ、他にも桜やツツジ、ハギなど、四季折々の花を楽しむことができる。園の東側に梅林が広がり、西側は杉や竹の林がある。
観光客の多くは梅林に近い東門から入園するが、正規の入園場所とされる好文亭表門から入ると真っすぐに伸びた竹林に囲まれた厳かな空間が広がる。曲線を描いた通路はこの竹林がどこまでも続くように感じ、だんだんと心が落ち着いてくる。竹林を抜けると一気に視界が開け梅林に到達する。
これらの暗さと明るさの対比には、儒教の精神が反映され「陰から陽への世界」を表現しているという。一瞬、心細ささえ感じさせられる竹林の先に、梅の花が咲き乱れる頃であれば、梅の香りと色鮮やかな花々が広がる世界が待っている。学ぶ者や領民に伝えたい斉昭の思いを感じさせられる。
この竹林には斉昭らしい別の意図もある。園内に生える1000本もの竹は、弓の材料として京都八幡の男山から移植されたもの。領民と楽しむ公園とし、陰と陽の世界を表現しつつも、万一の有事に備えた武器の原材料を備蓄する裏の目的を秘める。ここにも斉昭の工夫が織り交ぜられている。(次田尚弘/水戸市)