ミカンの価値アップへ 新栽培法の実証実験
和歌山県の主要農産物の一つ、温州ミカンの販売単価アップに向け、県は16日、水はけの悪い園地に雨水の浸透を抑えるシートを設置し、糖度を上昇させる「新方式マルチ栽培」の実証試験を開始した。出荷時の市場の評価や費用対効果などを検証し、農家に情報提供や技術研修を行うことで、より高品質で安定的な生産を推進する。
県果樹園芸課によると、県は温州ミカンの生産量、産出額、販売単価の日本一3冠を目指しているが、2018年産で生産量は15年連続、産出額は4年連続の日本一を達成した一方、販売単価は8位にとどまった。
ミカンは適度に土壌が乾燥することで糖度が上昇し、傾斜地に比べ、水田を転換するなどした平地は水はけが悪く、糖度が上がりにくいため、販売単価が低い傾向がある。
県内のミカン畑約7500㌶のうち約1000㌶が平地。新方式マルチ栽培により糖度が上がることはすでに実証されているが、シートの設置には費用と労力を要することから、県内での導入は約300㌶にとどまっており、県はさらなる推進に向け、今回の実証試験を決めた。
実証試験を行うのは、JAを通じて協力が得られた海南市や有田川町、有田市などの園地13カ所。県が資材費の2分の1を補助し、シートの設置も行う。
16日は、海南市下津町引尾の岡畑光顕さん(45)のミカン畑15㌃にシートを設置。県や市、JAながみね、JAグループ和歌山農業振興センターの職員ら13人が作業に当たった。
シートは特殊な紙製で、水は通さずに水蒸気を通す性質があるため、土中の水分が蒸発することは妨げず、土壌に雨が浸透するのを抑制することができる。
鉄管をシートの両端に取り付ける巻き上げ方式で設置しており、土が乾き過ぎる場合や肥料を入れる時などには簡単に開閉もでき、複数年の使用が可能となっている。
園主の岡畑さんは「マルチ栽培をするのは(費用や設置の手間から)かなり勇気がいるが、シートを敷く作業もしてくれるというので背中を押してもらった。糖度が上がり、おいしいミカンを作る方が楽しいので、楽しみにしている」と期待する。
今後は、実証園で検討会を開き、マルチ栽培の研修などを行う。収穫したミカンの糖度や出荷時の評価は昨年と比較し、生産者の収入アップにつながる効果などを検証した上で、来年1~2月ごろに報告会の開催を予定している。
同課の田嶋皓主査(38)は「マルチ栽培をしてももうけが出るのか疑問を持つ人にも、所得につながる検証結果が出ればPRしていける。和歌山のミカン生産の底上げに役立てたい」と話していた。