気軽に古典にふれて 「読む」ための入門書

全国の研究者や教員、作家が参加した古典の入門書『読まなければなにもはじまらない いまから古典を〈読む〉ために』がこのほど、文学通信から出版された。執筆者の中には、和歌山市出身で「木ノ下歌舞伎」を主宰する木ノ下裕一さんの他、同市梶取の印刷会社、㈱ウイング(松下忠代表取締役)の編集長、宇治田健志さん(39)が唯一のサラリーマンとして名を連ねている。

同書は、古典を〝覚える〟のではなく〝読む〟ために、16人の著者がそれぞれの角度から古典を読むための手掛かりやヒントを提示し、古典を読む楽しさの一端を伝える本となっている。

宇治田さんは、同社が発行する県の歴史や文化を伝える情報誌『ほうぼうわかやま』や、地元で働く人を紹介するキャリア教育本『さくらノート』などの編集を担当しており、地域の古典文学を扱ったり、大学関係の印刷を手掛けたりしている。

同書は、2018年に亡くなった元金沢大学名誉教授の木越治さんの遺稿を形にしようと、就実大学(岡山県岡山市)の講師、丸井貴史さんが編者も務めた。丸井さんと金沢大学大学院で同級生だったという縁から、執筆の依頼を受けた宇治田さんが、同書の第3部「いま、古典を『読む』ということ」の3章目を執筆。

紀伊万葉ネットワーク幹事でもある宇治田さんは「『現代社会』が古典文学をつくる―歌枕〈わかのうら〉受容の歴史から」というタイトルで、「わかのうら」を題材に古典と現代社会について論じている。宇治田さんは「和歌浦の歴史をたどりながら、時代時代でどういうふうに読まれ、味われてきたかについて執筆した」と話し、「古典文学に気軽にふれてもらうきっかけになれば」と願っている。

初めての本の執筆については「これまで編集や校正、印刷を担当する側だったので、初めて著者側の気持ちが分かった」と話し、「今後は県内だけでなく若い人たちに地域情報誌を書く仕事というものを広めていきたい」と意気込む。

11月24日には就実大学で講師を務め、大学生らに自身の仕事を紹介。12月には関西大学(大阪府吹田市)でも講師を務める予定だとし、「若い人たちとのつながりはうれしい。一つひとつのつながりを大事に、それぞれの地域で連携して盛り上がっていければ」と期待を込めていた。

A5判、320㌻、2090円。全国の主要書店で販売。アマゾンなど、インターネット通販でも取り扱っている。

初の著書を手に笑顔の宇治田さん

初の著書を手に笑顔の宇治田さん