愛着ある「港湾」 楽得さん残した写真集

10日まで和歌山市本町のフォルテワジマで開催中の「木国(もっこく)写友会展」で、2019年1月に91歳で亡くなった、同市の楽得永男(らくえ・ながお)さんの写真集『港湾』を、家族の厚意により、来場した希望者に進呈している。同クラブでは「写真を通じて、故人をしのんでもらえれば」と呼び掛けている。

楽得さんは内科医。同市に生まれ、県立医科大学を卒業。同市柳丁に楽得内科を開業し、医業の傍らカメラを趣味にしてきた。日本写真会の同友・評議員などを務め、和歌山市展、県展では招待作家だった。

収められている写真は、和歌山本港で撮影。1992年ごろから出入りが禁止となったが、楽得さんはそれ以前の81年ごろから港に通い、95年に写真集にまとめた。

夜の港に停泊する大型タンカー、巨大なクレーンやコンテナ群、音楽の演奏練習をする人の姿など、時間もさまざまな港の表情を写した85枚を収録。闇夜に浮かび上がる消波ブロックや光跡を写したものなど、静けさの中にも動きがあり、どこか非日常を感じさせるような独特の雰囲気の作品も多く収められている。

写真集の中で、楽得さんは「一般的には写欲の湧きにくい只のだだっ広い場所ではあるが、通う回を重ねるにつれ、私にとっては優しくもあり、厳しくもあり、自分自身を深く見つめられる愛着のある処であった」と記している。

木国写友会の島村安昭会長(73)は「診察が終わってから港へ車を走らせ、車のライトを使って撮影するなどしていたと聞きました」と話す。

5日には東京に住む楽得さんの長男、康之さん(64)も来場。「父は撮影となれば、日本全国を飛び回っていました。雪国が好きで、正月になったら大きなカメラを担いで、まるで探検にでも行くかのように出掛けていったのを覚えています」と振り返った。

自身も医師で、かつては米国に赴任。感染症を専門にジャングルの奥地にも出向いたという康之さんは「私も父親の冒険心を受け継いだのかもしれませんね。父を誇りに感じます」と話していた。

 

作品の前で写真集を手にする康之さん