長保寺に嫁ぎ10年 ソプラノ歌手の瑞樹さん

1000年(長保2)に建立されたと伝えられ、紀州徳川家の菩提寺である和歌山県海南市下津町の長保寺(瑞樹正哲住職)。国宝、重要文化財など1万点以上を有し、境内の敷地は1万5000坪にもおよぶ同寺に10年前、瑞樹比美香さん(36)は嫁いできた。ソプラノ歌手という異色の経歴を持ち、5日には和歌山城天守閣でコンサートを行う比美香さんに、和歌山や音楽への思いを聞いた。

比美香さんは神奈川県川崎市出身、高校から声楽を始め、ウィーンやミュンヘンで学んだ。

「美しい景色を見ると、自然と歌いたくなる。和歌山に来て感性が磨かれている」と笑顔で話す比美香さんは、寺の仕事、家事、育児、音楽とパワフルに活動する。

比美香さんが、長保寺の法嗣(ほっし)である夫、弘芳さん(38)と出会ったのは大正大学(東京都)。留学していたウィーンから帰国した比美香さんは、日本の文化を深く知りたいと、仏教学科に入学。仏教音楽と美術を学んでいた。弘芳さんは同じ大学の大学院生。2人は同じ研究室に出入りし、顔見知りに。ある日比美香さんは、滋賀県の比叡山延暦寺で仏教文化講座に1人で参加。帰り道に弘芳さんと偶然出会い、一緒に食事をしたことがきっかけで交際が始まった。

2年間愛を育み、比美香さんは結婚のあいさつのために初めて和歌山を訪れた。「最初は和歌山ってどこだっけ?という感じで、何も知らなかった。着いてみると透き通るような奇麗な海に驚いた」と振り返る。

2013年4月に結婚。音楽と離れ、境内の掃除や花まつり、春と秋の彼岸など寺の行事と家事に奮闘した。都会でしか暮らしたことがないため、最初は見たこともない大きな虫に悲鳴を上げることもあったという。

一番大きな壁となったのは言葉。周囲の人から「女優さんみたいな喋り方」と言われ、皆の話に入っていけないと感じ、和歌山弁を真似してみるものの「おかしい」と言われ落ち込むこともあったそうだ。

嫁いでおよそ半年たった頃、無性に歌が恋しくなり、反対されることを覚悟で家族に「音楽をやりたい」と相談。義父の住職は笑顔で「頼貞さんに喜ばれるね」と快諾。紀州徳川家第16代当主・徳川頼貞は、日本で初めて本格的音楽ホール「南葵楽堂」を建て、2万点を超える貴重な楽譜や音楽資料を所蔵する南葵音楽文庫を創設するなど、「音楽の殿様」と呼ばれるほど造詣(ぞうけい)が深かったからだ。

比美香さんは11月3日、同寺の「十夜会」で徳川家御霊殿、通称「おたまや」で念仏供養を行う法要が執り行われた後、奉納演奏としてコンサートを開いた。それは毎年続き、ことしで10年目となる。

夫の弘芳さんは比美香さんについて「ものすごく頑張ってくれている。それぞれのやり方があるから、自分の思うようにやってくれたらいい」と話した。

比美香さんのどこを好きになったのかを聞くと「笑顔がステキだから」と照れながら答えた。

空間と共に楽しんで 天守閣でコンサート

比美香さんは5日午後6時半から、和歌山城天守閣でコンサートを開く。

天守閣が夜間貸出をしていると知り、ぜひ歌ってみたいと企画した。ゲストに古久保有亜さん(バイオリン)、香川紀恵さん(ピアノ)を迎え、「荒城の月」「鞠と殿様」「さくらさくら」など日本の曲と、「アヴェ・マリア」「ある晴れた日に(蝶々夫人)」などを披露する。比美香さんは「空間も含めて楽しんでほしい。私は振り袖を着て歌います」とPR。

チケットは予約が必要。大人2500円、中学生以下1500円、小学生未満無料(席が必要な場合有料)。当日立ち見は1000円。天守閣入場料含む。

予約はムジークストラッセ事務局(℡080・6238・4745、メールmusikstrasse.classic.@gmail.com)。

寺の掃除をする比美香さん

寺の掃除をする比美香さん

ソプラノ歌手として活動する比美香さん

ソプラノ歌手として活動する比美香さん