イタリアのアート誌に掲載 写真家の松原さん
生まれ育った和歌山市和歌浦を70年にわたって撮り続ける松原時夫さん(83)の2冊の写真集が、イタリアのアートマガジン『The Light Observer』5号・6号で、2号にわたって取り上げられている。このうち、片男波海岸で写した砂浜の造形をまとめた一冊は「これまで誰も見たことがないような写真集」と紹介されており、松原さんは「うれしかった。会ったことも話したこともない海外の人にも、写真は伝わるんだと実感しました」と笑顔で話している。
紹介されているのは、松原さんが2021年に道音舎(みちおとしゃ)から出版した写真集『沖ノ島』と『砂のキャンバス』。
『沖ノ島』は、片男波海岸から望む無人島の沖ノ島を、ほぼ同じ地点から撮り続けた作品群から編集した一冊。日々刻々と変化する島の多彩な表情がカラーで記録されている。
『砂のキャンバス』は、松原さんが毎日のように片男波海岸へ出かけ、砂浜をキャンバスに見立て、波や風がつくる砂浜の造形を撮影したもので、全てモノクローム。作為のない自然がつくる形や像の美しさを捉えている。その詩情的な表現に、道音舎では発刊当初から「海外でこそ高く評価を受けるのでは」との思いがあったといい、海外向けに発信する中で同誌が大きな興味を持ち、掲載に至ったという。
写真専門のジャーナリストが記事の執筆を担当。いずれも10ページにわたり、『沖ノ島』からは5点、『砂のキャンバス』からは6点の作品を掲載している。
このうち、『砂のキャンバス』について、砂の動きを捉えた松原さんの写真は、まるで絵画のようだと紹介。砂の上に描かれた奇跡的な線を観察し、「待つ」ことに専念する撮影スタイルに言及している。海辺で遊ぶかのように撮影することで「色や物質、時の流れ、諸行無常など、あらゆる自然現象を眩しい目で見ている鑑賞者の衝動的な感覚を共有することができる。松原時夫は、さも私たちに新しい視線を投げかけているようだ」と記している。
同誌の記事は、日本語の表記で次のように結ばれている。
彼は今も毎朝、海岸に行って
砂浜の造形を撮っている。
上空を飛ぶトンビにパンを
放り投げてから、砂浜を撮る。
時にはしゃがみこんで、
ピンセットで小さな貝を拾う。
そしてまた砂浜を撮る。
『砂のキャンバス』は
そういう日々の中から生まれた、
これまで誰も見たことがないような写真集だ。
松原さんには、外国の人に、黒白の渋い色みや感覚的なものがどう受け取られるかという思いがあったという。「誰も見たことがないような写真集という言葉は、何よりうれしかった。これを読み『あぁ、僕の言いたいことはちゃんと伝わった』と思いました」と話している。
松原さんの写真集や『The Light Observer』5号・6号は、同市元博労町の「かまどの下の灰までgallery」で手に取ることができる。