気候変動に対応「ブラックビート」

前号では、巨峰に対抗した品種で、東北生まれの「あづましづく」を取り上げた。今週は「藤稔(ふじみのり)」と「ピオーネ」を交配してできた「ブラックビート」を紹介したい。
 ブラックビートは、熊本県で育成、2004年に品種登録された早生種。収穫時期の早さの色づきの良さに秀でており、8月から9月にかけて熟期を迎える多くのぶどうよりも早く、7月下旬から収穫が可能。比較的収穫期が早い巨峰と比べても10日程早い。
 熊本県の調査では気候変動の影響で、夏季において30度を超える高温の日が増えたことで、ぶどうの着色不良が深刻化しているという。高温となる8月を迎える前にいち早く成熟を迎え収穫が可能なブラックビートは、この地域におけるぶどう栽培の維持拡大が期待されている。
 ブラックビートの果実は短楕円(だえん)形をしており、1粒は約16㌘前後と大きめ。果皮は黒に近い。見た目は巨峰のようで、巨峰からの交配によりできた、藤稔やピオーネを親に持つ理由として納得できる。
 食してみると、巨峰系にある黒ぶどうならではの濃厚さが際立つ。酸味が弱いため甘味が強く感じられる。糖度は18度から21度。果肉は締まりがあり、やや硬めでありながらみずみずしさがあり、皮はむきやすく食べやすい。巨峰にあるような強い香りはあまり感じられない。
 農水省統計(2020年)によると、全国の栽培面積は19·3㌶。第1位は兵庫県(5·2㌶)、第2位は山梨県(4·4㌶)、第3位は福井県(2·6㌶)。東京都、香川県、熊本県、埼玉県と続き、第8位に和歌山県(1㌶)がランクインしている。
 熊本県と同様に温暖な気候の和歌山県内でも、7月下旬から出回る品種。開発の背景には気候変動に対応するための知恵があった。
(次田尚弘/和歌山市)