陶板画で雪の世界 県出身の南塚さん絵本出版

和歌山県出身の南塚直子さん(74)が、昨年10月、絵本『雪の女王』を小学館から出版した。アンデルセンの名作に、南塚さんが取り組む陶板画で1枚1枚絵を付けた。釉薬(うわぐすり)の優しい色合いと陶板の凹凸が、雪の質感や温かみを醸し出す。長年絵本作りで肩を組んだ童話作家の故・安房(あわ)直子さんと制作を誓い、64歳で新たに学んだ陶板で童話の世界を表現。試行錯誤の末に6年かけて完成した念願の一冊という。

魔法をかけられて心を閉ざし、雪の女王に連れ去られてしまった少年カイを助けるため、少女ゲルダが旅に出る物語。友を救うため、幾多の困難に立ち向かう少女の愛と勇気が描かれている。

これまでも水彩画や銅版画で挿絵をした南塚さんの絵本は、色鮮やかで繊細なモチーフが多く使われ、細やかさや優しさがあり、同作に登場する少女や小動物、それを囲む小さな花々もかわいらしく、素朴で温かさもある。

著名な作家による作品も多いこの名作を、陶板画という新たな技法で挑んだ南塚さんは田辺市出身。10歳で和歌山市に移り、桐蔭高校、津田塾大学英文科を卒業した。結婚、出産を経て、ハンガリー国立美術大学でかねてから興味のあった油絵と銅版画を学んだ。子育てと家事をこなす日々の中で、自分の生きがい探しにもがいた20代。30歳で絵描きになる決心をした頃、安房さんと出会い、挿絵画家として活動を始めた。

元々、安房さんの大ファンで「お互いに心を許し、信頼し合っていた」という南塚さん。『うさぎのくれたバレエシューズ』は、南塚さんが銅版画の絵を施した2人の代表作。全国学校図書館協議会選定図書や、第36回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選ばれ、発行部数は50万部を超えた。共に活動を始めた頃から、いつか作ろうと語り合ってきた憧れの作品が『雪の女王』だったという。

64歳で京都嵯峨芸術大学(現嵯峨美術大学)陶芸科に入学、心新たに、陶芸と陶板画を学んだ。本作は、銅版画の技法を陶板画に応用して作られている。針で下絵を描いた陶土の板を素焼きし、釉薬をのせて1200度で本焼きする。南塚さんによると、失敗を繰り返し、作品完成までに100枚以上の陶板画を焼いたという。

安房さんの死から30年、その間、制作活動を続けながら、病を乗り越え、新たに京都での学びを経て、完成に至った。

現在は東京に住み、軽井沢のアトリエなどで制作を行っている。

南塚さんは、「若い頃から思い入れがあり、安房さんや大切な人たちとの出会いを経て生まれた作品です。絵本は紙なので、実物の陶板に触れることはできませんが、どうやって絵が作られたんだろうと、皆さまに気にしてもらえるとうれしいです」と話している。

32㌻、1980円。インターネットで電子書籍も購入可能。

出版した絵本を手に南塚さん

出版した絵本を手に南塚さん