書と共に歩んだ92年 細畠清一さん回顧展

和歌山の書道教育・文化の発展に尽くし、2022年に92歳で亡くなった和歌山市の細畠清一(静峰)さんの回顧展「こんにちぶじ」が9日まで、同市西汀丁の県書道資料館で開かれている。個展は初めてで、長女の美鶴さんが企画した。

清一さんは湊南尋常小学校(雄湊小)で故・山本興石氏に、桐蔭高校の在学時に故・天石東村氏に出会ったことで書に親しみ、研さんを積んだ。19歳で和歌山家庭裁判所に事務官として奉職。そのかたわらで書作に励み、日展で連続入選。市内4カ所に教室を開き、和歌山に書道文化を根付かせた。長年、県展や和歌山市展の審査に携わり、県書道協会会長、県書道資料館理事、青潮書道会参与などを務めた。

会場には、生涯にわたり情熱を注いできた書の額装、パネル、掛軸などの作品約70点の他、道具や手紙、写真などを多数展示。書と共に歩んだ生涯をたどる内容になっている。

生涯の親友に贈り、今展のタイトルにもなった「今日無事」の書をはじめ、日展入選の「王維の詩」の下書き、青潮書道会展に出品した大作などが並び、その筆遣いからは衰えることのなかった創作意欲が感じられる。90歳で書いた「ありがとう」の書からは、人柄がにじむよう。

清一さんは1945年7月9日の和歌山大空襲を経験し、二十歳の姉を亡くした。小学校の頃に書いた毛筆の「皇國のみ柱」「ばんざい」、防空壕で戦火を逃れたノートや教科書なども紹介している。

美鶴さんは「冥土の土産に、本人に見てもらいたかったですが、この個展を通じて皆さんの中に何か心動かされるものがあったり、新たなつながりが生まれれば父もきっと喜ぶと思います」と話している。

午前10時から午後5時(最終日は4時)まで。問い合わせは同館(℡073・433・7272)。

 

父の思い出を来場者と語り合う美鶴さん㊧
父の思い出を来場者と語り合う美鶴さん㊧