「家族」上映 山田監督と倍賞さん対談も

「わかやま寅さん会」(西本三平代表)が主催する、山田洋次監督の代表作の一つ『家族』(1970年公開)の上映会が6日、山田監督と主演俳優の倍賞千恵子さんをゲストに迎えて、和歌山市の県民文化会館で行われた。倍賞さんと夫の小六禮次郎さんによる県内初のコンサートもあり、約1200人が来場した。

同会は、映画『男はつらいよ』のような人情あふれるまちづくりを目指して2013年に発足。これまでに山田監督作品の上映や特別先行上映会などを開いてきた。

『家族』は、倍賞さんが出演するフィルム映画。高度経済成長期の日本を背景に、貧しい一家が長崎県から開拓村の北海道へ移り住む長い旅の道のりを描いている。山田監督が「ぜひ会場で一緒に見たい」と予定を変更し、客席に座り見届けた。

対談には、倍賞さんと山田監督、俳優の北山雅康さん、和歌山市出身で照明技師の土山正人さんが登壇。倍賞さんは「『春になるとそこいらじゅうに花が咲いて、牛が草をモリモリ食べて。生きてて良かったとね父ちゃん』と、長崎弁で夫を励ますシーンのせりふが大好きで今でも覚えている」と振り返り、山田監督は「あのせりふは北海道の酪農の人が、赤字でやめるしかないのかと思ううちにまた春になり、春の景色を見ると、なぜか希望が湧いてくると言っていた言葉が印象的でせりふにした」と話した。

撮影終了後も倍賞さんの長崎弁が抜けなかったこと、大阪万博でジャンパーにカメラを隠し、人混みに紛れて撮影したことなどの秘話も披露した。

先月、東京国際フォーラムで開かれた「男はつらいよお帰り寅さん」のシネマ・コンサートの話題になり、山田監督が「オーケストラを和歌山でやってください」と舞台袖にいた西本代表にリクエスト。

急きょ、西本代表もステージに上がり、山田監督と倍賞さんが「また来ますから」と伝えると、西本代表は「皆さん聞きましたね。来年やりましょう」と意気込み、会場は拍手に包まれた。

山田監督は「『家族』は大切な映画。和歌山の皆さんと一緒に見ることができてうれしかった。若かった頃の未熟さや反省、僕の良いセンスを見ることができた」と話し、倍賞さんは「皆さんからの温かい拍手や温かい心を取り込んで、これからも頑張っていきたい」と笑顔で話した。

富山県入善町から来たという砂田良弘さん(59)は「山田監督や倍賞さん、作品の大ファンです。『家族』の映画をスクリーンで見たかった。和歌山は寅さん会があって温かい県だなと感じた」と話した。和歌山市から来た神崎佐和子さんは「映画を見て、高校の遠足で万博に行ったことを思い出した。裏話も聞けて、来年も来てくださるというので楽しみ」と笑顔だった。

午後からは倍賞さんらのコンサートを開催。また、会場案内や介助ボランティアは県立和歌山商業高校と和歌山工業高校の生徒が、司会や場内アナウンスは星林高校放送専門部の生徒が務めた。

西本代表は「まちのにぎわいを取り戻したい。映画やコンサートを通じて、人との関わりや、まちについて考える時間を持ってもらえたら」と話した。

 

対談する(左から)北山さん、西本代表、倍賞さん、山田監督、土山さん