根来塗の重器 池ノ上さんが制作し恵運寺へ
根来寺根来塗の室町時代の技法を復興した池ノ上辰山(しんざん)さん(65)と、弟子の松江那津子さん(43)は、和歌山市吹上の大宝山恵運寺(山本寿法住職)から依頼を受け、献湯茶器や献菓器、供物台、笏(こつ)など7種類の什器と仏具約30点を制作。1年半かけ完成した作品を5日、同寺に納めた。
恵運寺は2019年に創建400年を迎え、日本三大忍術書の一つ『正忍記』を書いた名取三十郎正澄の墓があり、忍者ゆかりの地とされている。
山本住職(57)はことし11月、寺の住職に正式に就任する儀式「晋山式(しんさんしき)」を行うことが決まっている。
曹洞宗の一ケ寺の住職となるためには所定の修行を積み、教師の資格を得てから申請し、管長から住職の辞令が交付されるのが晋山式。
寺院にとっては慶事の法要で、2日間にわたって執り行われる。
山本住職は2013年に父の跡を継いで第二十六世住職になり、2019年の創建400年に式を行おうと準備していたが、コロナ禍と先代住職の病で延期となっていた。
今回、式を迎えるにあたり山本住職は、先代が1969年に式をした時にそろえ、55年間使い続けた茶器などが劣化していたため、丈夫な根来塗に新調することにした。山本住職は15年ほど前に池ノ上さんの作品展で根来塗に出合い、その魅力に引かれ硯箱を購入。丈夫で使い心地が良かったことから池ノ上さんに依頼したという。
池ノ上さんは「何代にもわたり受け継がれても恥をかかないものを作った」、松江さんは「何百年先に使われていることを想像した」と話した。
山本住職は作品を手に取り「手になじんでいく過程を楽しみたい。使っていくうちにすり減ったり、傷ができたりするかもしれないが、それが味になる。あるがままの姿を受け入れることは禅の精神につながる」と一つひとつをじっくり眺めていた。