血中中性脂肪の値 医大が調節の仕組みを解明

和歌山県立医科大学は、女性ホルモンとして知られるエストロゲンが血液中の中性脂肪値に対応して胃から分泌され、値を調節していることを解明したと発表した。動脈硬化や腎不全などさまざまな疾患のリスクに関わる脂質代謝調節について、全く知られていなかったメカニズムが発見されたことになり、新たな治療法の開発などにつながることが期待される。

同大医学部解剖学第一講座の金井克光教授、伊藤隆雄助教らの研究で、7日に国際学術誌「コミュニケーションズ・バイオロジー」に掲載され、15日に記者会見が開かれた。

血中中性脂肪値は高いと動脈硬化、低いと心臓のエネルギー不足などを引き起こし、エストロゲンには脂肪の消費や脂肪組織への蓄積を促進する役割もあることが知られている。

解剖学第一講座では、前任の故・上山敬司教授が、胃の壁細胞がエストロゲンを分泌することを発見していたが、その役割は不明だったため、金井教授らが研究を引き継いだ。

研究では、雄のラットにオリーブオイルを飲ませ、血中中性脂肪値の増減に合わせてエストロゲンも増減することを確認。胃以外から分泌されるエストロゲンの影響を避けるため、胃を切除したラット、卵巣を切除した雌のラットでも実験を行い、同様の結果が得られた。

これにより、胃の壁細胞は脂肪酸をエネルギー源としてエストロゲンを作り、血中中性脂肪値に合わせて分泌し、調節しているメカニズムが確認された。

生命の維持に欠かせないエネルギー(糖・脂質)代謝調節については、膵臓(すいぞう)からホルモンのインスリンなどが分泌され、血糖値を調節する仕組みが広く知られ、関連する疾患の治療などを研究する基礎となってきた。

金井教授によると、今回の研究成果は、脂質代謝調節の理解を飛躍的に前進させる、根幹部分のメカニズムの解明に当たるという。ちょうど100年前の1921年にカナダ・トロントでインスリンが発見され、「トロントの奇跡」と呼ばれていることから、金井教授は今回の成果について、「『和歌山の奇跡』と呼ばれるようになればうれしい」と意義を強調した。

また、女性ホルモンであるエストロゲンの見方が、「増えれば血中の中性脂肪を低下させ、減れば増加させるホルモン」と変わることになり、金井教授は「エストロゲンが関わるさまざまな病態への理解が深まり、新たな治療法の開発が進むことが期待される」と話している。

研究成果を説明する金井教授㊧と伊藤助教

研究成果を説明する金井教授㊧と伊藤助教