強化プラで新技術開発 和歌山市の川本化成
和歌山市直川のプラスチック加工会社の川本化成は、軽くて強い特性を持つ「炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)」の溶接について、自社開発の溶接棒を使い、断面を平らにつなげる業界初の技術を開発した。従来は面同士を重ねる方法でしかできなかった。新技術の最大のメリットは軽量化と設計の自由度。各国で開発競争が激しいドローンなどへの活用が期待される。
ナイロン成分の溶接技術はすでに確立している。一方CFRTPの場合では、強度を高めるためナイロンに加えた平織りの炭素繊維が溶けづらい。ナイロンのみで溶接しても、面積の少ない断面同士では強度も弱くなる。
このため、CFRTPの接合は面と面を重ねてボルトや接着剤などで張り合わせなければならなかった。その結果、接着面に厚みや段差ができてしまい、見た目もいびつだった。
それぞれの融点はナイロンが200度、炭素繊維は千数百度と大きな差がある。川本淳生社長(43)は「同時に溶かすのは不可能。だが、溶かしたナイロンで炭素繊維を包み込む溶接をすれば、強度を出すことができるのではないか」と発想した。
接合面も含めて強度を保つためには、ナイロンのみを抽出する通常の溶接棒では作業ができない。県の「先駆的産業技術研究開発支援事業」などの補助金を活用し2000万円以上かけて専用の溶接棒を作る機械を導入。CFRTPを抽出できる溶接棒を作り、約1年半かけて接合に必要なナイロンと炭素繊維の割合をはじき出した。
専用の溶接棒で材料の断面を溶かしながら、抽出されるCFRTPでつなぐ技術を確立。現在は500㌔程度の力で横に引っ張っても耐えられる強度を保持する。「ナイロンと炭素繊維の含有割合や溶接技術を改良すれば、強度はさらに増すことができる」と川本社長は期待する。
断面同士でつなげた製品は、表面がきれいに仕上がり見た目も美しい。ただ、専用の溶接棒に加え、もう一つ「職人技」が必要になるという。
同社は1945年創業。手作業の多いプラスチック板の溶接組み立てなど、要望に沿ったオーダーメード品を製作してきた。溶接歴15~20年の熟練技術者30人を抱え、その規模は国内でもトップクラスを誇る。
プラスチック材は加工が容易な半面、熱を当て過ぎれば部材が溶け出すなど熟練の職人技が必要となる。川本社長は「経験と知識を持つ『職人』と『専用の溶接棒』が組み合わさることで、今回の新技術が確立された」と断言する。
溶接する断面は、直線から曲線までどんな形でも可能だという。CFRTPで作られるドローンは、新技術でより軽量化され、燃費の改善が図れる利点がある。また、その人の体に合わせたオーダーメードのものづくりに対応できるのも同社の強み。農業用パワーアシストスーツや義手・義足など、特注品への応用も今後考えられる。
昨年8月、同社は専用の溶接棒に加え、溶接技術の特許も取得。川本社長は「これを機にプラスチック溶接の認知度が上がり、広がってほしい」と語る。和歌山生まれの技術が世界に羽ばたく日も遠くないかもしれない。