コロナとの連戦に思う 野㞍さん本出版

新型コロナウイルスの最前線で陣頭指揮を執った前和歌山県福祉保健部技監の野㞍孝子さん(68)が、日々の感染症対応などをエッセイ風にまとめた本『“和歌山方式”を生んだ新型コロナとの連戦に思う~3年間の苦悩と葛藤の日々の軌跡~』を出版した。野㞍さんは感染者の全員入院や徹底した感染把握、保健所ネットワークで感染を封じ込める和歌山方式の立役者。本には未知の感染症との戦いで忙しく過ごす日々の中、帰宅後に書きとめていた、その日起こったことや思ったことなど、心の記録が紹介されている。

――出版を決めた理由は?
野㞍 事象だけでなく、葛藤や悩み、苦しみなど心の記録も残っている。それを伝えることで次に何か起こったときに生かせるかもしれないと思いました。

――新型コロナと戦った日々を振り返って印象に残っていることは?
野㞍 和歌山の新型コロナは全国初の院内感染発生という衝撃的な状況で始まりました。正しい情報を伝えようと、感染者のデータを分析し、日々変わる状況を連日記者会見で報告。ピーク時には夜11時に入院調整を終え仮眠をすると、5回起こされたこともありましたね。

初期には不安をあおる偽の情報が出回り混乱があった時、仁坂吉伸元知事が「自分と野㞍以外信用するな」と言ってから命令指示系統のピラミッドが明確になりましたね。

――本で伝えたかったことは?
野㞍 最前線の現場で何が起きていたか、保健医療行政のトップの苦悩を感じ取ってほしい。それを知ることで次に生かせることがあると思う。また、みんなの協力があってやってくることができたので、感謝も伝えたいです。

私には障害のある長男がいて、平日はケアホームで暮らし、金曜の夜から週末を自宅で過ごしています。コロナの間は休みがなかったから日中はヘルパーステーションに預けていたけど、そこは夜9時までで、間に合わないこともたびたびだった。「野㞍さんも頑張っているから」と、施設職員の皆さんは夜遅くまでみてくれた。本当に感謝しています。

――当時は真剣な面持ちでしたが、笑顔の多い人なんですね。
野㞍 あの状況では笑顔になれなかったけど、普段は大声で笑うし、明るくて前向きがモットーなの。


著書には和歌山方式確立の裏話や、現場でのエピソードが時系列に細かくつづられている。

書籍の制作、販売は㈱ぎょうせい。210㌻。価格は2200円。インターネット販売の他、書店で販売中。同社のホームページ(https://shop.gyosei.jp)からも購入可能。

問い合わせも同社(フリーダイヤル0120・953・431)。


野㞍 孝子(のじり・たかこ)

県立医科大学医学部卒業。小児科臨床医を経て1991年から御坊保健所に勤務し、94年に所長就任。2013年から県福祉保健部健康局長、18年から県福祉保健部技監となった。ことし3月に退職。現在は東京医療保健大学学事顧問・特任教授。後進の育成や講演活動も行っている。

出版した本を手に笑顔の野㞍さん

出版した本を手に笑顔の野㞍さん