紀州名産、歴史が深い「源五兵衛」
前号では、味覚の対比効果により甘味が引き立つ、スイカと塩の関係について取り上げた。関西では有数のスイカの産地である和歌山県。長年、和歌山市内で栽培され、ご当地のみならず県外でも親しまれるスイカの品種があることをご存じだろうか。今週は「源五兵衛(げんごべい)」を紹介したい。
源五兵衛は小スイカの一種で、主に、和歌山市の布引地区で栽培されてきた。時は江戸時代にまでさかのぼる。津波により不毛の地と化していた和歌山市南部の砂地の地域に対し、徳川頼宣が土地改良を命じ、スイカの栽培が始まった。水はけの良い砂地が栽培に適し、良質のスイカが収穫できたため「布引スイカ」と呼ばれ、紀州の名産品になったという。
このスイカに転機が訪れたのは和歌山市本町にあった酒屋の杜氏(とうじ)・源五兵衛との出会い。源五兵衛が和歌山市毛見にある「濱宮(はまのみや)神社」に参拝する途中、布引の畑でこぶし大のスイカを拾った。酒屋に持ち帰り、酒粕に漬けたところ上品な仕上がりとなり、改良を重ね販売を開始。やがて「小スイカの粕漬」として紀州の名産品となり、大阪や京都、さらには江戸へと販路を広げていった。この商品を作った人の名にちなみ、スイカにも粕漬にも、源五兵衛の名が付けられたという。
粕漬にした源五兵衛はこぶし大で、漬物のナスよりも小さく、一般的なスイカのイメージを覆す。丸い形ではなく、やや上下に長い楕円(だえん)形をしており、上部にはしっかりしたヘタが付いている。実際に食してみるとどのような味わいなのか。次週に続く。(次田尚弘/和歌山市)