貸し主が借り手を選ぶ さかさま不動産

開局イベントの参加者ら
開局イベントの参加者ら

新規事業に挑戦するため物件を借りたいという人の思いを伝え、貸し主を募集する新しいインターネットサービス「さかさま不動産」の和歌山支局が立ち上がった。資金面に乏しいが、やる気はあるという人を応援し、社会課題の空き家対策や移住定住への効果も期待されている。

三重県桑名市の㈱Оn―Cо(オンコ、水谷岳史代表)が2020年に愛知県を中心に同サービスを開始した。物件を借りたい人は、「希望の地域」「経歴」「挑戦したい事業内容」などをサイトに公開する。その情報から土地や建物の所有者が借り主を選んでアプローチするという、従来の不動産賃貸、売買とは逆の新しい仕組み。水谷代表によると、「大家さんは先祖から伝わる土地や物件に愛着があり、個人情報を公開することに抵抗を感じ、どんな人がどんな使い方をするのか不安を持っている」と話す。実際、現在の和歌山市の空き家バンクに登録された物件は十数件のみ。同サービスは、貸し主が相手の情報を十分に理解した上で貸すため、貸す側の不安を解消し、借り手との信頼が築きやすい。借り手も物件や地域への愛着が湧きやすく、新規事業の開始後に廃業になるケースはとても少ないという。

和歌山市で地元密着のサービスを展開したいと、バックオフィス業務を行うオフィスミモザ合同会社(長谷川萌子代表)が和歌山支局を設立した。全国で20局目となり、物件を探す人のヒアリングや情報掲載などをする。自治体が運営する空き家バンクとの連携も期待される。借り主らを応援したいとサイトは非営利で運営し、登録、掲載は完全無料。長谷川代表は「地元の人の挑戦を応援したい。挑戦の数だけ交流が増え、多様な豊かさが生まれることに期待します」と意気込む。

このほど、同市新通のゲストハウスリコで開局イベントが開かれ、ミモザのスタッフや水谷代表、物件を借りたい人、市役所職員など約30人が参加した。

物件で挑戦したい思いを語る時間も設けられ、「助産師の妻と、産後ケアできる施設兼ゲストハウスをしたい」「自分が作ったビンテージボタンアクセサリーの雑貨カフェを開きたい」など、参加者らが夢を語った。

水谷代表は「マッチング後も地域への周知などの支援もするので、地元の人間関係ができやすく、周りも応援するようになり、地域貢献の循環ができる。このような方法がもっとスタンダードになれば」と話している。

同市で子どもの料理教室を主宰する柴友加里さんは、「自分からもっと気持ちを発信していいんだと感じた。料理教室の他、散歩したり猫と遊んだり、人生の楽しみ方を教えられる場をつくりたい」と意気込んだ。

和歌山市空家対策課空家対策班の中村英人班長は「先祖の家を何とか使ってほしいという希望を聞くが、実際うまく合わないケースが多い。このような新しい目線のサービスで貸す側の悩み解消につながれば」と話した。

和歌山支局を立ち上げたオフィスミモザのメンバーら
和歌山支局を立ち上げたオフィスミモザのメンバーら