父親「悲しいより悔しい」 紀の川市児童殺害10年
2015年2月に和歌山県紀の川市で小学5年生だった森田都史(とし)さん(当時11)が刺殺された事件は5日、発生から10年を迎えた。父親の森田悦雄さん(76)は現場を訪れて花を手向け、「自分にとっては10年が区切りになっていない。悲しいより悔しい」と無念の思いを語った。
事件は同市後田の閑静な住宅街で起きた。自宅近くの空き地で遊んでいた都史さんは、刃物で頭や肩など10カ所以上を刺され亡くなった。
殺害した中村桜州(おうしゅう)受刑者(32)は、19年7月、殺人罪などで懲役16年の2審大阪高裁判決が確定。悦雄さんは、せめてもの償いをと民事訴訟で損害賠償を求め、和歌山地裁は18年8月末、中村受刑者に約4400万円の支払いを命じる判決を下した。
しかし、中村受刑者から賠償金は一切支払われず、謝罪の言葉もないまま。現状をどうにかしようと、昨年、悦雄さんは、犯罪被害者が加害者に対し、被害に関する心情や置かれている状況などを伝える「心情等伝達制度」を利用した。
3月、中村受刑者が収容されている刑務所の職員と面会し、謝罪がないこと、損害賠償が支払われていないことを中村受刑者はどう思っているのか問いかけた。
9月に届いた手紙には、職員が中村受刑者から聞き取った言葉がつづられ、毎年2月5日は忘れずに手を合わせていること、申し訳ないという思い、損害賠償は親と相談して支払うと書かれていた。
「誠意ある対応を全くしていないので、その言葉には不信感がある。引き続き心情伝達を利用し、悔しい思いを何度でも伝えていきたい」という悦雄さん。
「納得できるまで納骨はできない」と、都史さんの遺骨は今も、自宅の祭壇に置かれている。都史さんが寂しくないよう、悦雄さんはその前に布団を敷いて眠っている。生きていれば21歳の都史さんとの遺影と向かい合って酒を飲み、語りかけることもあるという。
「10年間辛抱しながら突き進んできたが、まだ納骨できる状況ではない。その日が来るまでまだまだ戦い続けていく」と話している。