伊勢路旅(24)三重県多気郡大台町(3)
前号では、三重県多気郡大台町のユニークな郷土料理「ないしょ餅」について取り上げた。大台町は伊勢の中心部から見て西側、海から見て奥に位置することから「奥伊勢」と呼ばれるエリア。人気が高い郷土料理「伊勢うどん」を提供する店が現れるのも、この奥伊勢のエリアからだ。今週は、地域で親しまれてきた「伊勢うどん」について紹介したい。
「伊勢うどん」は味噌からできる「たまり醤油」をうどんにかけて食べるという農村の人々の暮らしから生まれたもの。醤油をかけただけのうどんとして当初は「素うどん」と呼ばれ、お伊勢参りの参拝客らに300年ほど前から店舗で提供されるようになったという。
特徴は何といっても麺の太さと軟らかさ。讃岐うどんなどで際立つコシは全くといってよいほどない。一般的なうどんのゆで時間は15分ほどだが、伊勢うどんの場合は1時間ほどゆでる。一説によるとその理由は、お伊勢参りで長旅をしてきた参拝客に消化の良い食事を提供しようとしたことに由来。麺の形状を維持しながら軟らかい食感を味わえるよう極太麺になっているようだ。
ブランド化を図ろうと、麺飲食業組合がうどんに使用する小麦の種類として、この地域で採れる「あやひかり」の使用を推奨し、主原材料が県内産100%のものに対し、地域特産品認定を行うなど、地域振興への役割も大きい。
実際に食してみると甘みが強く濃いめのだし汁が麺に絡み付き、これまで経験したことのない味わい。店舗によっては、ネギの他に、かつお節や生卵がトッピングされていたり、だし汁がなみなみと注がれていたりと、その味わいと見た目はさまざま。かつてからお伊勢参りの食事として親しまれていた「伊勢うどん」を、ぜひご賞味あれ。
(次田尚弘/大台町)