大切な故人を美しく 美粧衛生師の平野さん

 亡くなった人の体を衛生的にケアし、まるで眠っているような穏やかで自然な表情に整える。和歌山県和歌山市南細工町の葬儀社「慶集社」の平野泰寛さん(45)は、全国で8人しかいない遺体ケアのプロである「美粧衛生師」の一人として、多くの遺体と真摯(しんし)に向き合ってきた。死後、さまざまな変化が起こる遺体のケアは、単に外見を整えるだけでなく、遺族や葬祭業者らを「遺体感染」の危険から守る意義もある。平野さんは「適切なケアが行われてこそ、大切な人に最期まで寄り添い納得のいくお別れができる。故人様の穏やかな表情を心に焼き付けてほしい」と話す。

 明治創業の老舗葬儀社の次男。納棺師として働いていたあるとき、遺体ケアの第一人者、橋本佐栄子さんのことを知り弟子入りした。

 海外では、家族の元に遺体を戻す前に衛生的に保存処置を施す「エンバーミング」が一般に行われているが、火葬文化の日本ではあまり知られていない。また、遺体であっても血液や体液、排泄物などから病気がうつる可能性はある。にもかかわらず、多くの人が無防備のまま遺体に接し危険にさらされているのが現状だという。

 平野さんは、医学的・科学的根拠に基づく遺体の冷却管理や防腐、表情の整顔、衛生処置などを6年かけて学び、「公衆衛生の観点からも、葬儀の前に『遺体ケア』のプロセスを踏むことが必要だ」との思いを強くした。

 長い闘病生活でやつれていたり、事故や自殺などで亡くなり損傷していたりと死後の状態は遺体によってさまざまだ。

 元気だった頃の印象が強く、すっかり変わってしまった姿に「よう顔を見やん」と目を背ける遺族も多い。そんな光景を見るたび、平野さんは「きちんと向き合ってお別れができない。何とか生前と同じお顔に近づけて差し上げたい」と、できる限りのケアに努めてきた。

 同社では一昨年、「和歌山遺体ケアセンター」を立ち上げ、葬儀まで遺体を24時間体制で預かるサービスを提供している。美粧衛生を受けた遺体は数日間、状態が保たれることから、あわただしいスケジュールにゆとりが生まれる。「ゆっくりと葬儀の支度を」と勧められるようになったという。

 幾度となく現場に立ち会うたびに思う。「葬儀とは、残された人たちが前へ進むための大切なお別れの場だ」。だからこそ、故人の手を握ったり顔に触れたり、安心して寄り添える環境を整えたい。平野さんは「葬儀は日本の素晴らしい文化。『美粧衛生』を多くの人に知ってもらい、当たり前のケアとして広まってほしい」と話している。

 同社の美粧衛生サービスは、葬儀社にかかわらず自宅や式場など指定の場所で利用できる。問い合わせは慶集社(℡073・422・2542)。

「大切な故人様を美しい姿で送り出してあげたい」と平野さん

「大切な故人様を美しい姿で送り出してあげたい」と平野さん