タクシーに元気な産声 東署女性警官が介助
和歌山県和歌山市内で、陣痛が始まりタクシーを利用した妊婦が産婦人科に向かう途中、間に合わずに車内で出産する出来事があった。運転手の判断で和歌山東署に駆け込み、分娩を介助したのは2人の女性警察官。予期せぬ緊急事態での出産となったが母子ともに健康で、見守ったタクシー運転手も、とり上げた女性警官も「無事に産まれてきてくれて何より」と、ほっと胸をなで下ろした。
11日午前9時ごろ、相互タクシーの運転手、濵中良宏さん(72)は同市に住む30代の妊婦を乗せて出発。女性は自力で乗り込めたが、程なくしてうめき始めたため、後部座席にバスタオルを敷いて横たわらせた。
「一刻も早く病院に」との思いとは裏腹に、渋滞に巻き込まれてしまった。女性は会話できる状態ではなく、緊迫した状況に。「これは間に合わん」――。濵中さんは当初から警察署に応援を求めることも選択肢にあったといい、パトカーに先導してもらおうと、産婦人科に向かう道路沿いにある和歌山東署に駆け込んだ。
手続きを済ませ、さぁ出発という時、「赤ちゃんが産まれそう」との求めに応じたのは、交通課の池田映実巡査部長(37)と生活安全課の田上直子巡査部長(42)。女性は同署の駐車場に停めた車内で破水しており、すでに赤ちゃんの頭が出ているようだったため、毛布をかけて対応。池田巡査部長がズボンを脱がすと、赤ちゃんはするりと産まれてきたという。
2人の女の子の母親でもある池田巡査部長は「顔の周りに巻き付いたへその緒をほどいて顔を拭くと、泣き声を上げたので安心しました」と振り返る。産まれたのは男の子で、田上巡査部長が「赤ちゃん大丈夫ですよ」と女性に声を掛けると、「ありがとうございます」と安心した様子だったという。
すでに到着していた救急車の隊員に引き継がれ、母子ともにそのまま産婦人科へ。ほんの3、4分の出来事だった。
濵中さんは「とにかく無事で安心しました。私も3人の親ですが、正直出産がこんなに大変なものだと、今回初めて分かりました。改めて母親は強くてすごいと感じました。これからも元気に育ってほしいです」と母子の無事を喜んだ。
相互タクシーは2016年から、妊婦や育児中の母親をサポートする「相互ママケアタクシー」を導入。登録制で、妊娠中の外出や定期健診、陣痛時や入院時の病院への送迎の他、乳幼児健診や子どもとの外出時などに利用できる。
助産師からマタニティー講習を受け、陣痛や出産についての基礎知識を持ったドライバーが対応する他、バスタオルや手袋などママケアセットも車内に常備している。事前にかかりつけの病院なども登録しておけるので、いざというときに道案内の必要がなく、妊婦に好評という。登録者数は累計約1200人で、2年間で70人の妊婦を緊急に搬送している。