下津蔵出しみかん 県内初の日本農業遺産に
和歌山県海南市下津町の地域農業ブランド「下津蔵出しみかん」の栽培システムが15日、県内で初めて日本農業遺産に認定された。自然の力を利用した持続的な農業システムや、かんきつ栽培の起源で、ミカンの流通に貢献したとされる地元の歴史的背景などが評価された。認定により、特産品の販路拡大や農業の後継者不足解消などに期待が寄せられる。
日本農業遺産は、伝統的な農林水産業を営む地域を農林水産省が認定するもので、2016年に創設。2年に1度申請でき、今回は14府県18地域が申請し、7県7地域が認定された。
申請は18年5月、海南市や県、農業・商工関係者らで構成する「下津蔵出しみかんシステム日本農業遺産推進協議会」(神出政巳会長)を設立して行い、8月に書類による一次審査を通過。9月の現地調査を経て、ことし1月末に農林水産省で行われたプレゼンテーションによる二次審査を経て、認定に至った。
下津地域は急傾斜地で降雨が少なく、稲作や畑作が困難な土壌。住民は傾斜と土壌条件を生かしたミカン栽培に約400年にわたって取り組み、暮らしを支えてきた。山頂や崩れやすい急傾斜地には雑木林やため池を造成し、その下に石垣の段々畑を築いてミカンを栽培。災害耐性にも配慮し、木造土壁の貯蔵庫でミカンを自然熟成させ、付加価値を高める技術も培ってきた。
9月の現地調査では、同町がミカン栽培発祥の地として築いてきた独自文化の資料が残る橘本神社や、生物多様性のみられる山頂の雑木林、ため池による水不足解消の有効性がうかがえる福勝寺の滝の景観などを、世界農業遺産等専門家会議委員を務める大学教授や、農林水産省職員らが視察。
橘本神社に残る、世界的かんきつ分類学者田中長三郎氏がスケッチブックに記したミカン類の観察記録から「西洋では修道院がワインの醸造技術の発展に寄与していることから、神社とかんきつ栽培の密接な関係性をPRすると欧米諸国の理解が得られやすいのではないか」と指摘されたことを参考に二次審査に臨み、プレゼンテーションには同協議会のメンバーとミカン農家4人も参加した。
認定を受け、地元は歓喜に沸いており、協議会メンバーのJA職員は「祝いの電話をたくさんもらった」と笑顔。「米作りには向かない傾斜を果樹栽培に転換したことがシステムづくりの発端であることや、防災も視野に入れた先人の知恵などは農家に教えてもらった」などと経緯を話し、「登録が観光客の増加や農家の利益の向上、後継者不足の解消などにつながれば」と期待を込めている。
認定式は4月19日、農林水産省講堂で行われる。
県内では、「みなべ・田辺の梅システム」が、日本農業遺産認定制度の創設前に世界農業遺産に認定されている。