県天然記念物に再指定 紀美野のブドウハゼ原木

和歌山県教育委員会は23日、紀美野町松瀬の「ブドウハゼの原木」を県の天然記念物に指定した。和ろうそくなどの良質な原料として、かつて町内で広く栽培され、戦前に県指定天然記念物となっていたが、その後枯死したと考えられていたものを、りら創造芸術高校(同町真国宮)の生徒が2017年に発見。再指定に向け、県教委や町教委、県立向陽高校などと共に調査が進められ、ついに実現した。

ブドウハゼは落葉小高木であるハゼノキの栽培品種の一つで、果実が通常のハゼノキと比べて大きく、ブドウの房のように実ることから名付けられた。ハゼノキの果実から採れる木蝋(もくろう)は和ろうそくやおしろいなどの原料となり、ブドウハゼは特に品質が良いため、現在の紀美野町を中心に盛んに栽培されていた。

歴史は江戸時代の天保年間(1831~45)にさかのぼり、旧志賀野村松瀬に住む勇三氏が、通常より果実が大きいハゼノキを発見し、その後、接ぎ木により量産化された。

原木は接ぎ木に使う枝の採取が繰り返され、昭和初期には樹勢が衰えていたため、勇三氏の孫、吉瀬善次郎氏の申請により、1934年(昭和9)9月4日に「葡萄櫨ノ原木」として県の天然記念物に指定された。

56年に県文化財保護条例が制定され、それ以前の指定文化財について58年3月31日までに限り指定文化財とみなす経過措置がとられたが、「葡萄櫨ノ原木」は再指定の申請がなかったため、同年4月1日に自動的に指定は解除。85年発行の『野上町誌下巻』には「現在枯死してその跡形もない」と記されていた。

再指定への取り組みのきっかけは、りら創造芸術高校の授業の一環で行われた調査。住民への聞き取りなどを基に、生徒が2017年、原木とみられるブドウハゼを松瀬地区で発見し、県教委と町教委も再指定に向けた価値付け調査に乗り出した。

原木は竹やシュロが生える山林内に生育し、根元幹周は158㌢、樹高は8・2㍍。県林業試験場の調査による推定樹齢は188~229年。木の形状は、同校が古写真と照合した結果、旧指定木と一致した。

県は原木、ブドウハゼ、野生のハゼノキの果実について形態や構造の比較調査を行い、原木の果実が栽培品種のブドウハゼのものと一致することを確認。さらに、県立向陽高校が葉から抽出したDNAの比較調査を実施し、同様の結果が得られた。

これらの調査により、過去に「葡萄櫨ノ原木」として県の天然記念物に指定されていた樹木と同一個体と考えられると結論。県教委文化遺産課は「このブドウハゼの原木は、紀美野町域の生業を支えた栽培植物の原木として貴重であり、保護を図っていく」としている。

県天然記念物に再指定されたブドウハゼの原木(県教委提供)

県天然記念物に再指定されたブドウハゼの原木(県教委提供)