城下町に古書店の灯を 溝端さん紀国堂開店
城下町・和歌山の歴史ある文物が集まり、語り合える場をつくろうと、絵はがき・古写真収集家の溝端佳則さん(56)は今月1日、古書の店「古書肆(こしょし)紀国堂」を和歌山市築港の喫茶「水茶都(みさと)」2階にオープンした。懐かしさを感じさせる古紙の香りが漂う店内では、4000冊以上の古書と和歌山ゆかりの古物が出迎えてくれる。 現在の和歌山市内の古書店は、比較的出版が新しく、希少価値の低い物を扱う新古書店ばかりとなり、伝統的な古書店は姿を消してしまった。「古書店は文化のバロメーター。市内にないことが我慢できなくなった」という溝端さんは、ことし3月末で県職員を早期退職し、かねて念願だった古書店の店主となった。
溝端さんは、小学生時代の担任の教師の影響で古い物に興味を持ち始め、決定的なきっかけとなったのは高校時代、学校の図書館で『紀伊国名所図会』を見たこと。紀伊国の寺社・旧跡・景勝地などの由緒や歴史を、挿絵とともに紹介した江戸時代後期の地誌書。本の中に広がるふるさとの昔の姿、現在に続く歴史や魅力に心奪われた。
「文化的な仕事がしたい」と願ってきた溝端さん。県職員として、県立文書館に9年間勤務した経験も開店を後押しした。県内の旧家などから古文書の寄贈、寄託を受け、目録を作成する仕事は、古い物への興味と「地元の歴史ある物は地元に置いて守っていきたい」との思いを一層強くした。
店は「水茶都」の玄関を入り、階段を上った2階。溝端さんは県職員時代から、水茶都でコレクションの展示をするなどしてきた。
2階には小説などの一般書をはじめ歴史書、辞典類など多彩な古書があり、思い入れの深い和綴じの『紀伊国名所図会』、ことしで就任300年を迎える8代将軍・徳川吉宗の事跡を記した『有徳院殿御実紀』の写本なども並ぶ。
書籍以外では、明治36年の相撲の番付表、近代の京都画壇で活躍した田辺市中辺路町出身の日本画家・野長瀬晩花の掛け軸などもある。
売り物ではないが、店内には火縄銃も飾られている。紀州雑賀鉄砲衆の一員である溝端さんが使っている本物で、来店者は手に取ることができる。溝端さんが収集した、明治時代から戦前を中心とした約1万5000枚の絵はがきコレクションのファイルも本棚に並び、自由に見て楽しめる。
溝端さんは「店を通じて地元の古いものを発掘していきたい。訪れる人が和歌山の歴史を語らえる店にしたいですね」と話しており、水茶都の木村好秀オーナー(67)は「高野山や熊野だけではない和歌山の良さを知ってもらいたい。学生ら若い人が来てくれたらうれしい」と期待を寄せている。
【古書肆 紀国堂】和歌山市築港1丁目11▽営業時間=午前10時~午後7時▽定休日=月曜、第2・4日曜▽℡073・499・8039