「海難1890」への期待 日本トルコ両国支援の舞台裏

映画「海難1890」製作の裏話をご紹介したい。

10年前田嶋串本町長から「エルトゥールル号と、イラン・イラク戦争時のトルコによる日本人救出を映画にしたい」との構想を伺った。田中光敏監督が町長の同級生で、映画化にあたるという。

しかし、日・トルコ合作映画の前例はないし、座礁や空爆をリアルに再現する製作費は高額となる。資金やトルコ政府の協力のめどが立たないまま、映画化構想に進展なく数年が経過した。このままでは夢で終わってしまう状況だった。

転機は第二次安倍政権の発足。総理の地球儀俯瞰外交の中で、トルコのエルドアン首相との間で、個人的信頼関係が醸成されていった。特に五輪招致で争い、東京が決定したその場で同首相が総理に歩み寄り、抱き合った場面は象徴的であった。

そして2013年10月に安倍総理がトルコを訪問し、首脳会談を行うことになった。官邸で会談のテーマを検討していた時、頭の中で「そうだ!総理に首脳会談で映画のことを言ってもらおう」という考えがひらめいた。総理に「エルトゥールル号事件とテヘランでのトルコ航空機による日本人救出をご存じですか?」と問いかけると、「知っている。イ・イ戦争時の外相は父だ」と応じてきた。私がおそるおそる「映画化の動きがあるのですが、総理からエルドアン首相に『両国政府で支援しよう』と呼びかけてもらえませんか?」とお願いすると、総理は「両国関係強化に資する話だ。やってみよう」ということになった。

10月29日にイスタンブールで首脳会談が実施され、終了間際に総理が映画化への支援を提案。エルドアン首相も快諾。トルコ政府による全面協力と多額の資金拠出も約束してくれた。これで急転直下映画化が動き出した。

日本も相応の資金を用意しなくてはならない。仁坂知事とともに、スポンサー集めに奔走し、文化庁や和歌山県の補助も加え、トルコ側と遜色ない資金を集めることができた。

製作には東映が手を挙げてくれた。岡田裕介会長は「大切な題材だから、社運をかけて取り組む」と約束してくれ、「剛腕の幹部を責任者とする」として、村松秀信取締役をエグゼクティブプロデューサーに指名した。村松取締役が初めて官邸にあいさつにみえた際に、「前から世耕さんに会いたかった」と言われ、理由を尋ねると、「自分は近大卒。息子二人も近大生で、近大の大ファンだ」ということだった。この映画に対するご縁を痛感した。

その後、さまざまな難題も出てきたが、政府も支援し、映画は完成した。

12月1日にプレミア試写会で政府を代表してあいさつさせてもらった時は感無量であった。あいさつの中で「一人でも多くの日本人がこの映画を観て、トルコとの友情の歴史を知るべきだ」と申し上げた。

そしてこの映画によって、和歌山の先人の素晴らしさが日本と世界に伝わり、和歌山に注目が集まることを心から期待している。