体験談紹介も 脳脊髄液減少症の研修会

脳や脊髄を守る働きをする脳脊髄液が漏れ、頭痛やめまいなどを長期にわたって引き起こす疾患「脳脊髄液減少症」について考える県主催の研修会が3日、和歌山市の県民文化会館で開かれ、医療や教育関係者ら約70人が、講演や患者による体験報告などを通じて、病気に対する理解を深めた。

同減少症は脳室内で産生され、脳と脊髄の周りを循環している脳脊髄液が漏れ出すことで起こる。交通事故などにより体に大きな衝撃が加わることで生じることが多いとされており、有効な治療法として期待される「硬膜外自家血注入法(ブラッドパッチ療法)」に昨年4月から保険が適用されるようになったことを受け、同減少症について多くの人に知ってもらおうと企画された。

研修会では、角谷整形外科病院の太田又夫院長代行が「脳脊髄液減少症の診断と治療」と題して講演。同減少症の症状について、頭や頸部などの痛みに加え、不整脈などの自律神経に関する症状や記憶力、判断力の低下などを挙げ、気圧の低下など、天候の変化による影響も大きいと紹介した。原因については、交通事故やスポーツなどによる外傷が多いことを指摘した他、出産が原因となるケースもあると話し、注意を呼び掛けた。

平成16年に国際頭痛学会が示した診断基準については、多くの患者を診てきた経験から、同減少症は症状が多様で、患者の多くは同基準に合致していないと指摘。有効な治療法として期待が大きいブラッドパッチについては、脳脊髄液の漏れを防ぐための処置で、人工髄液注入などの後療法も重要と説明した。

講演の後、同減少症と闘う県内の女性が闘病の体験を報告した他、同減少症の患者支援に取り組む認定NPO法人「脳脊髄液減少症患者・家族支援協会」の中井宏代表理事が取り組みについて報告。 女性は自転車を運転中に溝へ転落し、それ以降背中をドンとたたかれるような痛みやめまいに悩まされるようになったと話した。各地の病院を受診したが、毎回異常なしと診断され、途方に暮れていた矢先にコンビニで偶然手にした漫画がきっかけで同減少症を知り、太田院長代行の治療を受けると少しずつ回復。外出先で倒れることが多かったのが、今では新幹線で長距離を移動できるまでになったという。

中井代表理事は、同減少症に対する医学界の取り組みの遅さを指摘。現場で診療に当たる脳外科医などの間で同減少症に対する理解がまだまだ不十分なことから、医師専用のサイトを開設し、英語版も掲載して世界に発信していることなどを紹介した。

参加した県立和歌山高校の川嶋捺美養護教諭は「学校にもめまいなどの症状に悩んでいる生徒がいるので、接し方を考える際の参考になりました」と話していた。

太田院長代行(奥)の講演を聴く参加者たち

太田院長代行(奥)の講演を聴く参加者たち