吉宗開発の用水路 世界かんがい施設遺産に
江戸時代中期に徳川吉宗の命で造られ、和歌山県岩出、紀の川両市など紀の川沿いの4市町を流れる「小田井用水路」が11日、世界かんがい施設遺産に登録されることが決定した。建設当時の用水路が多く残っていることや、当時の建設技術が後世に受け継がれていることが高く評価された。県農業農村整備課は「農家だけでなく、地域が一体となって施設を守る意識が醸成されるのでは」と期待を示している。
小田井用水路は紀の川の水を右岸の水田に供給する用水路で、橋本、紀の川、岩出各市とかつらぎ町の4市町を流れる。かんがい面積は建設当時が約1000㌶、現在は都市化や水稲から果樹への作物変更などの影響を受け567㌶で、用水路の延長は32・5㌔となっている。宝永4年(1707)に当時紀州藩主の徳川吉宗が新田開発に伴って必要となる用水を確保するため、土木技師の大畑才蔵に工事を命じ、3年後に完成させた。
世界かんがい施設遺産は平成26年度に創設。国際かんがい排水委員会(ICID、本部=インド)が、建設から100年以上経過している▽かんがい農業の発展に貢献した▽歴史的、技術的価値がある――などの登録基準に従って選定しており、28年度までに世界47施設が登録されている。本年度は日本から小田井用水路や土淵堰(青森県)など4施設が登録を申請し、全て登録が認められた。
県は11日、県庁で記者会見を開き、農林水産政策局の鈴木孝志局長と農業農村整備課の井賀尚哉課長が出席。井賀課長はメキシコで開かれたICIDの国際執行理事会で登録が決定したことを報告。地元の農業者で構成される小田井土地改良区と共に約1年半をかけて準備を進めてきたと説明した。
小田井用水路の工事には紀州流と呼ばれる地域独自の工事スタイルが採用されており、井賀課長は「堤防を築くことで蛇行した河川を直線化し、遊水池を水田化している」と説明。「これほど大規模な施設が残っていることは少ない。地域の皆さんに重要さを知ってもらい、(用水路を)誇りに思ってもらえたら」と話した。
登録証の伝達式は11月中旬に東京都内で行われ、今月21日には用水路を歩く「大畑才蔵歴史ウォーク」が開かれる。