かまぼこの丸濵が廃業へ 創業99年の老舗
厳選された鮮魚を使い、熟練の職人の手で「あしべ焼き」などかまぼこの逸品を作り続けてきた和歌山県和歌山市和歌浦南の老舗「㈱丸濵」が、創業100年を目前に27日で営業を終了する。食文化の多様化や原材料の高騰などにより存続が困難となり、断腸の思いで廃業を決断したという奥村典生社長(70)は「感謝の一言に尽きます」と、伝統の味を愛し、支えてきた人々への思いを話す。
丸濵は大正9年、海の幸に恵まれた和歌浦の地に創業し、ことし99年目を迎えた。看板商品の「あしべ焼き」は、紀州東照宮を創建した紀州徳川家初代・頼宣公に、魚のすり身を葦(あし)の葉で巻いて献上したことが由来となっている上質のかまぼこ。職人の技で丁寧に一枚一枚手作りした豊かな風味や弾力にはファンが多く、地元和歌山だけでなく全国にも大勢いるという。
「自分が食べておいしくないものを売ることはできない」との信念を守ってきた奥村社長は、約40年にわたり、毎朝5時半に出来上がったばかりの商品を試食してきた。少しでも味に納得がいかなかった商品は店頭に並べなかったが、「商品へのこだわりも、経営という面では良くなかったことがあるかもしれない」との思いがよぎる。
10年ほど前から、取引先だった和歌山市内のスーパーやデパートの倒産、撤退が相次ぎ、経営に少なからず影響はあったが、経費節減の努力をしながら製造、販売を続けてきた。社員一丸となって乗り切る数年が続いたが、2018年に入って原材料費が一気に高騰し、作れば作るほど赤字になる状況に陥ったという。
1975年ごろには和歌浦だけで12軒のかまぼこ店があったが、現在は丸濵を含めて2軒に。食文化の多様化が進むとともに、お節料理やお歳暮、引き出物などの昔ながらの伝統が薄らいでいることなどが「かまぼこ離れにつながっているのではないか」と奥村社長は話す。
「お世話になってきた得意先などに迷惑だけは掛けたくない」との思いから、1世紀に達しようとする店を廃業する道を選択した。現在は生産量を減らして製造を続けているが、スーパーへの納品は20日まで、27日に本店をはじめ全ての販売を終了する。
廃業することを知り、中元商品などを大量に注文する客もいる。「これまで丸濵に関わっていただいた全ての人に感謝している」と涙をにじませた奥村社長は、こだわりの商品を届けるため、最後の一日まで早朝の試食を続ける。