伝承で危機意識高める 地蔵堂で津波避難訓練

安政大地震で津波から人々を救った「呼び上げ地蔵」の伝承をもとにした避難訓練が5日、和歌山県海南市井田で行われた。

1854年11月5日午後5時ごろ、大地震が発生し、同市の日方地区には大津波が押し寄せた。夕闇の中、人々は汐見峠に見えた光を頼りに峠に向かい走っていると、「こっちへ来い」と呼ぶ声がし、声に導かれた峠の中腹で多くの住民が無事を喜び合うと、その場所には熊野詣での道しるべとなる地蔵が鎮座していたという地域の伝承を生かした訓練で、ことし2年目。

呼び上げ地蔵は現在、近隣の山とともに地蔵寺の管理下にあり、毎月24日に地域住民らが清掃している。訓練は、地蔵のある上神田自治会の大上敬史会長が中心となり、伝承を盛り上げ、避難への意識を高めてもらおうと始まった。

同自治会や当時避難したといわれる今市地区などから40人ほどが参加した。集合した参加者はたいまつの火を先頭にライトを手にして250㍍先の地蔵堂を目指し、「津波が来るぞ!」「早く逃げろ!」と大声で誘導しながら暗い坂道を上がった。

地蔵堂では参加者が線香を上げ、地震の犠牲者を追悼。地蔵寺の土山明祐住職が「ことしは台風の犠牲者が多かった。自然災害は『もういいや』と思った頃に予想以上のことが起こる。普段から訓練することで逃げられるので、これからも参加してもらいたい」と話した。

たいまつを先頭に峠を歩いて避難する住民ら

たいまつを先頭に峠を歩いて避難する住民ら