濱口梧陵を交響曲に 向山さん作品冒頭披露

濱口梧陵の「稲むらの火」を原点とする「世界津波の日」の5日、梧陵の生誕地・和歌山県広川町の町民体育館で「地域巡回防災教室」が開かれ、海南市のアマチュア作曲家・向山精二さん(73)が作曲を進めている、梧陵の活躍を描いた交響曲の冒頭部分が弦楽四重奏で披露された。和歌山大学災害科学教育研究センター長の此松昌彦教授の講演もあり、町内の中学・高校生、自主防災組織の町民ら約600人が聴き入った。

同教室は和歌山放送(中村榮三社長)の開局60周年記念事業の一環。災害時の重要な情報伝達手段であるラジオ局として、県民の防災意識の向上を図るため、県内各地で専門家による講座を開催し、この日は締めくくりの13回目となった。

向山さんは、県内の歴史や偉人などをテーマに作曲活動を続けている。遭難したトルコ軍艦エルトゥールル号の乗員を救助した串本の人々と、イラン・イラク戦争中に現地に取り残された日本人救出に飛んだトルコ航空機の実話を題材にした「紀伊の国交響組曲」の第5楽章「友情」は、トルコのトプカプ宮殿、ニューヨークのカーネギーホールなど各国で演奏され、世界平和を訴える音楽としてたたえられ、これらの功績により2018年度県文化功労賞を受賞している。

安政南海地震(1854年)の津波から広川の人々を守り、復興や堤防建設などの防災事業に尽力した梧陵の偉業に感銘を受けた向山さんは、「紀伊の国交響組曲」第6楽章「世界津波の日」の作曲を決意。2021年に県内で開催される第36回国民文化祭で発表することを目指している。

今回は、梧陵誕生までの冒頭部分を弦楽四重奏で初披露。舞台のスクリーンにはドローンなどで撮影した広川の美しい海や山、梧陵の生家などが映し出され、田園風景を表現した温かな調べや、偉人の誕生に心躍るようなリズミカルな響きが会場を包んだ。

作品は今後、津波の襲来、梧陵の活躍、世界津波の日の制定へと展開していく。向山さんは「研究すればするほど濱口梧陵はすごい人物だと感じている。一つの交響楽として完成させたい」と話している。

此松教授は「皆さんの地域で大規模災害時にどんなことが発生するのか」と題して講演した。

災害時に命を守る避難行動をするためのキーワードとして「自然理解」「想像力」「対応能力」を挙げ、自分が住む地域で起こる被害をイメージできるよう知っておき、イメージを高めるために災害発生のメカニズムなどを理解し、実際に行動に移せるよう実践的な訓練を積んでおくことの重要性を強調した。

さらに広川町の地形図などを示しながら、具体的な注意点などを解説した。

「紀伊の国交響組曲」第6楽章「世界津波の日」の冒頭部分が初披露された

「紀伊の国交響組曲」第6楽章「世界津波の日」の冒頭部分が初披露された