行く春を静かに コロナで異例の花見シーズン

新型コロナウイルスの影響により全国的に外出自粛要請がなされる中、前代未聞の花見シーズンは和歌山県内では終盤を迎えた。宴席の禁止や関連イベントの中止などに伴い、例年なら人が密集するほどのにぎわいとなる紀北の名所も、人影は少なく寂しい。それでも「コロナの話ばかりで気分が沈みますが、桜を見て癒やされました」などと、満開の花に心和ませる人たちが静かに訪れている。

海南市阪井の亀池公園は、8代将軍・徳川吉宗に仕えた井沢弥惣兵衛によって造られた約13万平方㍍の広大な池。4、5日の週末は約2000本の桜が満開の姿を見せ、チューリップなど他の花も咲き誇っていた。

市観光協会は5日に予定していた「亀池さくらまつり」を中止。約5000人でにぎわうステージイベントや大規模な餅投げがなくなり、近隣の巽小・中学校グラウンドを開放していた臨時駐車場も設けなかったが、週末は周辺の路上に車があふれた。

桜の下でベンチにゆったりと座る人、園内の広場でキャッチボールをする人、犬を散歩させる人など、訪れた人の楽しみ方はさまざま。

つり橋でつながる中島には、紀州徳川家の別邸で、国登録有形文化財の双青閣があり、座敷で撮影するコスプレーヤーの姿もあった。

営業職という市内の40代の男性会社員は「得意先を訪問できず、仕事がどうなるのか心配。人が少ないので、落ち着いて花見ができるのはうれしいですね」と話していた。

約600本の桜がある和歌山市の和歌山城公園では、「桜まつり」を開催したものの、宴席は禁止し、ぼんぼり100個とちょうちん400個による花のライトアップ、出店も5日で終了。堀の遊覧船も期間が大幅に短縮された。

昼も夜も、公園内の人の数は十分に距離をとって歩けるほどしかおらず、出店も、本来は書き入れ時の午後8時には大半が店じまいをしていた。

焼きそばを販売していた出店の店員は「普段はソースのこげる匂いで人が寄ってきてくれるんやけどね」と、入り込みの寂しさを嘆いた。

一面に桜が咲く広場を散策する人たち(亀池公園)