中村哲さんの生き様 ドキュメンタリー上映

戦火のアフガニスタンとパキスタンで35年間にわたり病や貧困に苦しむ人々に寄り添い、人道支援を続けた医師・中村哲さん(1946~2019)の活動を記録したドキュメンタリー、劇場版「荒野に希望の灯をともす」の上映会が30日午前10時半、午後1時、3時の3回、和歌山市七番丁の和歌山城ホール小ホールで開かれる。

中村さんは福岡県生まれの精神科医。1984年、パキスタン北部ペシャワールの病院に赴任し、医療支援に取り組む中、2000年の大干ばつで現地の農業は壊滅し、人々が渇きと飢えで次々と命を落としていく状況に直面する。

命を守るためには水が必要だと、中村さんは井戸を掘り、用水路を建設する事業を開始。1600本以上の井戸を掘削し、25㌔以上に及ぶ用水路も建設し、砂漠化した大地に緑をよみがえらせた。さらなる用水路建設に取り組んでいた2019年12月、何者かに銃撃され、73年の生涯を閉じた。

今回上映される劇場版「荒野に希望の灯をともす」は、以前に発表されたDVD版とは異なる。戦火のアフガニスタンで21年にわたり継続的に記録されてきた映像に未公開映像と現地の最新映像を加え、22年にリメイクされた〝完全版〟となる。

「ここには、天の恵みの実感、誰もが共有できる希望、そして飾りのないむきだしの生死がある」――と中村さんは語った。専門家がいない状態で始まり、多くの技術的トラブルや空爆、息子の死などの苦難の連続を乗り越えて完成された用水路は今、65万人の命を支えている。

これからも語り継がれ、輝きを増しながら人々を励まし続けるであろう中村さんの生き様にふれることができるドキュメンタリー作品となっている。

今回の上映会は、県出身で現在は京都市で映画製作・配給の仕事に携わる西川和樹さんが実行委員会を立ち上げ、さまざまな企業、団体などに協力を呼びかけて実現した。

治水から安定した日常を人々にもたらした点で中村さんに通じているとして、海南市出身の江戸時代の治水家・井澤弥惣兵衛の顕彰に取り組む「井澤弥惣兵衛さんを知ろう会」の山添高道事務局長も賛同した一人。

山添さんによると、井澤は新田開発の際に、大きな川をせき止め、水を利用する工法として竹を編んだ蛇篭を利用しており、中村さんもアフガニスタンで用水路を建設する際に針金で作った蛇篭を利用。さらに中村さんは、雪解けの暴れ川を制する工法として、筑後川に残る山田堰を参考にした。

山添さんは「いずれも、日本で古くから使われてきた技術をアフガニスタンで利用し、成果を挙げました。残念ながら、中村さんは凶弾に倒れましたが、中村さんの行ってきたことは多くの方々に引き継がれています。また、引き継いでいかなくてはなりません。この度の上映会を多くの皆さんに鑑賞していただくとともに、日本の治水技術にも思いをはせていただければと思います」と上映会への参加を呼びかけている。

チケットは前売り1200円、当日1500円。和歌山城ホールと県民文化会館、チケットぴあで取り扱っている。問い合わせは実行委員会(フリーダイヤル0120・778・237)。

劇場版「荒野に希望の灯をともす」

劇場版「荒野に希望の灯をともす」