50年先も続く集落に 冷水浦に移住の伊藤さん

「地域が50年先も続き、次世代のプレーヤーを育てる仕組みをつくりたい」――。そう話すのは、和歌山県海南市冷水浦の空き家を活用し、集落を元気にしたいと、2017年に同地区に移住した伊藤智寿さん(39)。空き家を改修して店舗を増やす他、被災時でも自力で直せる力をつけるため、地域の人に改修の技術の指導も行い、冷水浦の魅力を高め発信し、移住希望者や地域の人の中心となり活動する。

伊藤さんは大阪府出身。神戸芸術工科大学、環境デザイン学科で建築設計を学び、卒業後はフリーでデザインやウェブサイト制作などを手がけた。

25歳で大工の修行を始め、その後独立。車中泊をしながら設計や施工、企画などをこなし、「旅する大工」と呼ばれるようになった。

近畿圏内や宮城県、熊本県など被災地での復興支援活動などに携わり、宮城県石巻市で海際の全壊した集落を訪れた際、屈することなく生きる被災者の強さや明るさを目の当たりにし「いつかこんな海際の集落に移住したい」と考えるようになったという。

近畿各地を回るうち、和歌山は波長が合ったといい「人の良さや自然、歴史のある和歌山に引きつけられた。コミュニティーがあり地域が盛り上がる可能性がある」と、冷水浦に移住を決めた。

移住してすぐ、50年先も地域が元気に続く仕組みを目指し「Re SHIMIZU―URA PROJECT」をスタートさせた。空き家を改修して就農者の宿泊場や飲食店を作り、技術を学びたいと訪れる大学生らに設計や大工仕事を指導している。

復興支援活動での防災の教訓も生かし、長年使用していない井戸を、有事の際には生活用水として活用できるよう整備。同市が認定する「災害時協力井戸」に登録された。

同プロジェクトは昨年、鹿島出版会が主催する、建築、模型、インテリアのドローイングと模型の入選展である、SDレビュー2023朝倉賞に選ばれた。

今後はキッチンを設置し、飲食店や被災時の炊き出しの場としての活用も予定。伊藤さんは「ゴールは決めず変化させながら面白おかしく、まちを変えていきたい」と話している。

 

「集落を元気にしたい」と笑顔の伊藤さん
「集落を元気にしたい」と笑顔の伊藤さん